安倍政権のコロナ対策での迷走は
森友・加計学園問題と根っこが同じ

 自民党が安倍首相に「忖度」して、医療の現場や支持者の声を受け止めながら首相には伝えない。その一方で、首相官邸・内閣府にはさまざまなツテをたどって、数々の要望が伝えられている。この連載では、「森友学園問題」「加計学園問題」などに関係して、同様の問題を論じたことがある(第176回)。

 コロナ対策も同じ構図だ。さまざまな人が官邸・内閣府にやって来ることと、「全校一斉休校」(第234回)「アベノマスク」(第237回)「9月入学(秋入学)の検討」(第241回)などが唐突に浮上し、決まっていくことと関連がないとはいえない。

 また、専門家やメディアの間で激しい論争が続く、PCR検査を拡大するか抑制するかについても、安倍首相や加藤厚労相の発言が二転三転しているようにみえる。官邸・内閣府に「拡大派」と「抑制派」が入れ代わり立ち代わり現れて、首相や厚労省を前に自説を展開して帰っていくからだという。特に首相は「八方美人」的なところがある。面と向かって相手の言うことを否定はしない首相の性格が、政府の意思決定を混乱させている面がある。

今度は「疫学vs経済学」の構図で
専門性を欠いた迷走が続く可能性も

 5月12日、政府は新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づき設置されている「基本的対処方針等諮問委員会」に、小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹ら経済の専門家4人を加えることを決めた。専門家会議の上部の組織体に経済学者を加えたことで、西浦氏らの影響力が下がり、今後は疫学よりも経済が優先されるように潮目が変わるのだろう。

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 小林氏は早速、「コロナ対策で収入減少に直面した個人に毎月10万円の現金給付を行うべきだ」などと積極的に発言を始めている。ただし、「経済の停滞を避けるには、財政拡張政策を継続すると同時に、大規模な検査を実施できる能力を確立し、陽性者を隔離して陰性者の不安感を払しょくすることが不可欠である」と指摘したことは、小林氏の専門性とは無関係の発言だ。疫学と経済学の間で、今後も専門性を欠いた迷走が続く懸念がある。

 日本の新型コロナウイルスの感染者数・死者数の少なさは、「日本の奇跡」「日本の謎」と世界から呼ばれている。韓国の防疫体制のように「世界のモデル」と称賛されることはない。どうひいき目に見ても、安倍政権の意思決定が混乱していたのは明らかだ。日本のコロナ対策は、たまたまうまくいった「結果オーライ」だとみなされているのだ。

 本稿は、日本の政策決定システム、特に「有事」におけるシステムの問題点を詳述してきた。たとえコロナの感染者数、死者数が欧米より少なかったとしても、それがただの幸運ならば、これでいいのだと安心はできない。今後、エボラ出血熱のような強毒性のウイルスに襲われたとき、今のシステムではひとたまりもないだろう。政策決定システムの抜本的な見直しが必要といえる。

<参考文献>
大田弘子『経済財政諮問会議の戦い』(東洋経済新報社)
秋吉貴雄『公共政策の変容と政策科学:日米航空輸送産業における2つの規制改革』(有斐閣)
佐藤満『厚生労働省の政策過程分析』(慈英社)
「日本のサンクチュアリ546 国立感染症研究所」『選択』(2020年3月号)
「日本のサンクチュアリ548 厚労省・結核感染症課」『選択』(2020年5月号)