虫食いの設定、7章から映像化――ユーザーとともに歩む仕掛け

 原作者自らが全体監修を行うFGOの世界観に、ユーザーは自然と巻き込まれていく。ユーザーの半数は、もともと「Fate」シリーズに親しんできており、TYPE-MOON作品で共有される世界観について一定の知識がある。たとえば、魔術と魔法はTYPE-MOON作品の世界では明確に分けられている。TYPE-MOON作品群の中では、世界に6つしかないとされる「魔法」、たとえば「並行世界の運営」であるとか「魂の物質化」を可能とする魔法などまだ3つしか明らかにされていない。

 このように、奈須きのこ氏の脳内にはあるのかもしれないが、ユーザーには開示されていない設定が虫食いのように存在し、FGOにおいては、ゲームをプレイし、ストーリーを進める中でそうした設定の一部が明らかになっていく仕掛けとなっている。ユーザーはまだ明らかになっていない設定を推理するだけでなく、突然開示されることによるカタルシスを味わっていくのである。それは、FGOの新しいシナリオが配信された途端、ネット上にさまざまな考察・攻略サイトが増殖する様子を見れば明らかだ。

「Fate」シリーズにおいては、万能の願望機である「聖杯」をめぐる戦いが繰り広げられている

 1つの作品の中に考察のネタが出揃っている作品と、「Fate」シリーズをはじめとしたTYPE-MOONの作品群とはこの点で決定的に異なっている。この開示される情報の不十分さが、さながら現実世界そのものに対する我々一人ひとりの認識の限界とシンクロし、不思議なリアリティを持ってファンを虜にしていくのである

 話を戻すと、FGOのアプリの開発はディライトワークスが、宣伝に関してはディライトワークスとアニプレックスが共同で行っている。アニメ製作を中心に手掛けるアニプレックスは、テレビCMやPV、FGOのアニメ化プロジェクトなど映像に関わる部門を一手に引き受けている。FGOのアニメとしては第1部 第七章「絶対魔獣戦線バビロニア」がテレビシリーズとして放映され、2020年には第1部 第六章「神聖円卓領域キャメロット」が劇場公開される予定だ。それにしても、テレビシリーズや映画化などの大々的な映像化を第1部の頭からするのではなく、途中のパートから映像化するのはなぜなのか。その理由を、金沢さんはこう語る。

「2018年初頭に実施したユーザーアンケートの中で、メインクエストでどの章が好きか、また今後のFGOに期待する展開は何か、という項目があったんですね。すると、人気の高かったクエストとしては第1位が第七章、第2位が第六章に、また期待する展開として第1位にTVアニメ、第2位に劇場アニメという結果がでました。FGOをプレイしていない人には唐突な感じがするかもしれませんが、ユーザーの皆様が見てみたいと考えていただいている思いを大事にできればと受け止め、また視聴ハードルを下げる施策をゲームやアニメの施策としても盛り込めると考え、結果として第七章、第六章の順で映像化することにしたんです」(金沢さん)

劇場版「Fate/Grand Order-神聖円卓領域キャメロット-」特設サイトより

 高額の宣伝費や製作費がかかる映画製作のセオリーからすると、「誰もが楽しめる、わかりやすい作品」といった薄く広いマーケティングがなされないことに疑問を抱く人も多いだろう。しかし、もっとも高いエンゲージメントを示すコアユーザーを第一に考え映像化するという強気な姿勢を可能にするのは、FGO、ひいては「Fate」シリーズがこれまで積み上げてきた、ファンが愛してやまない物語やキャラクターという“資産(アセット)”の存在だ。それが、「Fate」という世界をともに開拓しているという「共犯関係」を生み出し、結果としてファンと制作サイドがより強固な「コミュニティ」となっていくのである

ゲームとリアルがシンクロ――魔神柱討伐イベントで得た一体感

 FGOにおいて、ファンと制作サイドの一体感を表すもっともわかりやすい出来事がある。それは、ゲーム内の時間軸とリアルの時間軸がシンクロした魔神柱の「制圧戦」である。そもそもFGO第1部は2016年に人類が滅亡することが明かされ、その「人理焼却」に立ち向かうために、過去のさまざまな歴史において本来の人類史から逸脱した「特異点」にレイシフト(霊子転移)して、狂った歴史を正していくというストーリー。そのため、7つの特異点をクリアし最後に訪れる終局特異点で主人公たちの前に立ちはだかる「魔神柱」をみんなで倒そうというイベントが、まさに人類が滅亡する2016年末に実際に開催されたのだ。

「当時はいまほどユーザー数も多くなかったし、今よりも少ないスタッフで開発していたのですが、めちゃめちゃ熱量の高い時間をともに過ごしてきました」(石倉さん)

 あまり詳しく語るとネタバレになるが、「魔神柱」というのは簡単に言えば、人類に仇なす最大の敵(最後のボス)の眷属、みたいにイメージしてもらえればいい。これが終局特異点でこれでもかと大集合する。いわゆるレイドボスイベント(1体の強敵に対して複数人で挑むバトル形式)だ。魔神柱を1体倒せば貴重なアイテムが手に入るというのもあるが、最終章に向けて盛り上がってきたシナリオに没入するユーザーは、なかば本気で人類救済という使命感を帯びながら、年末の短い時間に集った。すると、3日と経たずになんと1800万体の魔神柱が実際のユーザー一人ひとりの手で狩り尽くされてしまったのである。この結果にネット上はお祭り騒ぎとなり、「魔神柱追悼動画」なるミームが溢れかえったほどだ。