「鉄道好き」は中学入試の役に立つ
中学入試の社会科の問題を見ると、中学高校レベルの内容が盛り込まれていて、大人でも解答に迷うことがままある。地理・歴史・公民の3分野からバランスよく出されることが普通なので、ヤマを掛けるわけにもいかない。最近の傾向として、社会科でありながら理科の知識がないと正答に至らない問題も出てきており、「社会は暗記科目」と考えると墓穴を掘ることになりかねないのだ。
毎年、首都圏中高一貫校100校余りの社会科問題を見続けて半世紀に迫らんという早川明夫先生によると、年によって上下はあるものの、鉄道に関する問題が全体の1割ほどで出されているという。北陸新幹線が開通した翌年の入試ではその割合は2割を超えたという。まさに見逃せない傾向であり、鉄道好きは入試の役に立つのである。
JR東海道本線の全駅名を諳(そら)んじる博士くんのような子どもが時折登場するが、子どもの柔らかい頭にとって、こうした暗記はお手のものといえる。実際、図鑑をそのまま覚え込んで、鉄道の車両タイプや記号などを冗舌に語る子どももいる。
では、どのような鉄道に関する問題がよく出題されるのか。早川先生によれば、それは「車窓からの風景」の問題である。受験生の地理の総合的な力を見ることができるからだ。
例えば、東海道・山陽新幹線の車窓から見える風景を都府県ごとのイラストにして、通過する順番に並べ替える問題などがその典型例である。地域の特産品や観光資源を示したり、主な工業製品の出荷額をグラフにしたり、通過する河川の順番を問うなど、車窓に絡めてさまざまな地理の基礎的な知識を試すことができる。
出題校の地元沿線に関連する問題もある。50周年を迎えた東急の世田谷線が問題の冒頭に出てきたり、東横線のポスターを見て関連する鉄道会社の事業を尋ねたりと、鉄道に絡めた問題は出題しやすいのかもしれない。
2020年の入試では、首都圏の市街地が拡大する様子を示す地図が掲げられて、共通する要因は何か(鉄道の延伸、相互乗り入れ)を問い、バスなど、ほかの公共交通手段と比べて鉄道のもたらす経済効果の大きさを問うような設問もあった。
自動車と比較して、鉄道の持つメリットを挙げさせる問題では、その定時運行性や走行速度が速い点、二酸化炭素排出量の違いから地球温暖化を語るなど、話が広がる点も鉄道問題が好まれる要因といえそうだ。