しかし、成長ドライバーとして日本企業が追い求めている新興国市場の開拓という第Ⅳ類型においては、必要とされる組織能力はまったく異なる。それは、新興国市場の一般的かつ静的な情報ではなく、自社事業にとって意味のある生きた現地情報(インテリジェンス)に基づいた製品・サービスの開発力と提供力に要約される。

 海外事業の死の谷を避けるためには、経営者は基本戦略を再検討し、4類型ある海外オペレーションのどれが自社の成長戦略として最適であるかを判断する必要がある。4つの類型は時系列的にシフトしてきた経緯はあるが、新興国の成長を取り込む第Ⅳ類型を選択することが、いまの日本企業にとって唯一の成長戦略というわけではない。第Ⅰ〜Ⅲ類型を含めてオープンに検討すべきである。

 自社の業態や組織能力、市場構造などを考えた場合、新興国で本当に戦えるのかどうかは、よくよく考えなくてはいけない。逆に先進国市場で十分に戦える場合もあるからだ。

 たとえば、我々が支援した次のような事例がある。仮にA社としておこう。A社はアメリカ市場に参入して40年ほど経つ工作機械メーカーで、典型的な第Ⅰ類型のケースである。現地法人を置いて長くやってきたが近年、売上げは低迷を続けていた。本社サイドは売上げ改善の指示を送るが、現地からは「これ以上、市場開拓の余地はない」との返答。現地の情報を十分に把握していない本社サイドは、そう言われると反論できない状況だった。

 しかし、新たに就任した社長は現地法人の言い分に疑問を抱いた。アメリカ市場で売上げを伸ばしている同業他社があることを知っていたからだ。そこで、我々が現地の実態調査を依頼された。

 実際に調べてみると、アメリカ市場での営業活動は現地の代理店に頼っており、エンドユーザーに関する情報を現地法人は正確につかんでいなかった。我々は代理店に頼んで、エンドユーザーの工場に案内してもらった。すると、A社の工作機械はあるのだが古い製品ばかり。一方で、競合他社の最新製品が工場内にずらりと並んでいた。

 結局、A社ではエンドユーザーに積極的にアプローチする営業戦略に転換することで、売上げを再び成長軌道に乗せることができた。

 これまで多くの日本企業にとって主戦場は国内市場であり、海外は従の立場にあった。このため、海外事業に対しては本社経営陣の関心は概して低く、現地法人のマネジメントは現地に任せるとの美名の下、実態としては本社と現地の間で情報は遮断されていた。

 A社はその典型例であったが、第Ⅰ類型でカギとなる組織能力、つまり先進国市場での営業能力をいちだんと磨くことでさらなる成長機会をつかむことができたのだ。