本連載の前回記事では、上場企業の「脱炭素」の取り組みは、長期的な戦略課題としても、株主との建設的対話(エンゲージメント)の論題としても、ESG経営の最重要テーマであると紹介した。
今回は、脱炭素に向けた情報開示の最終ゴールとも言うべき「(気候変動の)財務インパクト試算」について、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みと併せて解説する。
サステナビリティ開示の本丸は
気候変動リスクと機会の「財務インパクト」
2023年1月に公布・施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(改正開示府令)により、上場企業は有価証券報告書の中で「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設することが義務付けられた。
内閣府令の適用は2023年3月31日以後に終了する事業年度からとされ、多くの3月決算企業は本年6月末までの提出が求められる有価証券報告書から、「サステナビリティ全般」に関する記載を追加しなくてはならない。(人的資本やダイバーシティに関する開示も義務付けられたが、本稿では割愛する)
まさしく現在、上場企業のIRや財務担当者は、有報記載の対応に追われる日々であろう。
内閣府令はサステナビリティ全般の開示項目を「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標及び目標」と4つに分類しているが、この分類はTCFDのフレームワークそのままであり、「サステナビリティ全般」が「気候変動」を強く意識したものであることは自明だ。
取り急ぎ、今年の有報開示では「ガバナンス」と「リスク管理」だけが必須開示事項とされ、「戦略」と「指標及び目標」は重要性に応じた任意開示とされた。このため、気候関連のリスクと機会に関する取締役会の監督機能やリスク管理プロセスについてさえ記述すれば、今回は及第点となる。
しかし、それで溜飲を下げてはいられない。次の「戦略」と「指標及び目標」こそが、資本市場や海外投資家が求める情報開示の本丸であるためだ。