ESG先進事例として耳目を集めるB2C企業の“教え”サステナビリティへの取り組みは消費者の心を動かし、自社のブランド戦略につながる(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 本連載の第1回で、ESGはプラグマティック(実利的)であり、ビジネスとの親和性が高いとお伝えした。実際に、日本の企業がどうESGをビジネスに結び付けているか、本稿ではB2C(消費関連)企業の先進事例を交えて解説する。

【ケース1】花王
非財務情報の充実による
長期経営シフト

 ESGの代表的な取り組みは、CO排出量削減だ。日本政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、多くの上場企業がそれに賛同している。ただし、CO2削減は割高な代替エネルギーの導入や事業活動上の制限などを必要とし、ESG推進には企業の採算性という壁が立ち塞がる。

 消費財化学メーカー大手の花王は、2019年に発表した「Kirei Lifestyle Plan」において、ESG経営に大きく舵を切ると宣言した。

 同社は、和歌山工場から首都圏への製品輸送に係るCO2排出量削減に向けて、陸路のみでの輸送から、陸路/海路のハイブリッド型輸送への切り替えを進めている。ハイブリッド型輸送への移行は短期的な運送費用を増加させるが、インターナルカーボンプライシング(企業の管理会計上の炭素価格の見える化)を考慮することで、CO2排出量削減の長期的な経済合理性が確認できたという。

 インターナルカーボンプライシングのような先進的な取り組みに限らず、全ての上場企業に義務付けられたTCFD情報開示における「財務インパクト」の試算によって、気候変動リスクの見える化は実行可能だ。気候変動に係る将来のリスクと収益機会の財務インパクトを数値化することで、事業計画の財務目標やアクションプランとの平仄を合わせることが求められる。

 気候変動に限らず、自然環境や生態系の変化も、企業の経済活動と密接に関わっている。TCFDのフレームワーク(ガバナンス/戦略/リスク管理/指標と目標)を参考とした「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」が本格的に導入される日が来るであろう。前出の花王は、TNFDが提案するアプローチに基づいた生物多様性に関する報告書を任意開示している。

 これらの取り組みが評価される形で、花王はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がベンチマークとする5つの、国内企業を対象とするESG指数全ての採用銘柄となっている(2022年12月31日時点)