本連載の第4回、第5回の記事では、上場企業の脱炭素の取り組みや、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みが求める財務インパクト試算の解説をした。これらの取り組みは、サステナビリティ経営という本来の目的に加えて、情報開示や株主・投資家との建設的対話におけるアジェンダ(論題)という意味でも大きな役割を果たす。
本稿では、ESG戦略を対外的に説明するうえで重要なツールとなる統合報告書について、特に投資家との対話につなげるという視点から解説する。
自社の企業価値向上戦略を示し
ステークホルダーとの対話につなげるツール
宝印刷D&I研究所の調査によると、2022年末時点で統合報告書を発行した企業は、前年末を154社(21.4%)上回る872社となった。(注1)
https://www.dirri.co.jp/res/report/uploads/2023/02/5c703266ae69cf2f927055dd64a9931e51a00f64.pdf
日本における統合報告書は、2000年代後半から導入事例が増えてきたが、当初はアニュアルレポートと環境/CSR報告書の合冊にとどまるものも多かった。その後、IFRS財団(旧IIRC)が「統合報告書フレームワーク」のなかで「価値創造モデル(オクトパスモデル)」を示したことで、財務情報と非財務情報の「統合的な開示」というアプローチとともに、「財務資本と非財務資本」「ビジネスモデル」「アウトプットとアウトカム」(注2)が図式化されて開示されるようになってきた。