R&Dの成果と具体的な事業化・製品化の間にいわゆる“死の谷”が存在するのと同様に、海外進出という種を蒔いた後、成長や収益貢献という果実を得るまでにも“死の谷”が存在し、そこから抜け出せないことに悩む日本企業は多い。本稿では、死の谷を生む要因とそこからの脱出方法について、具体的な事例を交えながら解説する。

自社の成長戦略に適した 海外オペレーションを選択する

 国内市場が縮小する中で、日本企業にとって海外事業の重要度が高まっていることは論をまたない。だが、先進国市場の成熟化や競争のボーダーレス化などによって、海外での事業運営の難度は非常に高まっている。

 このため、海外事業を推進しつつも、思い描いた果実を得るには至らず、"死の谷”に陥っている事例が散見される。海外事業が期待通りの成果を上げていないことに対して、オペレーショナルな解法を求める経営者が多いが、それは多くの場合、問題の根源をきちんととらえていないと考えられる。

 そもそも海外進出を行うかどうかも含めて、何を競争優位として、どの市場で、どう戦っていくのかという戦略的なグランドデザインが欠けている企業が多く、そこに"死の谷”を乗り越えられない根本的な問題がある。

 さらにその背景には、国内市場が縮小しているから消去法的に海外に行く、あるいは他社も行っているから仕方なく自分たちも行くといった「逃げの海外脱出」姿勢があり、それが戦略デザインの欠如という根本的な問題につながっている。

 ここで下の図表を参照していただきたい。これは、日本企業の海外進出をその目的によって類型化したものである。

|図表|日本企業による海外進出類型の変遷
 

 第Ⅰ類型は日本からの輸出先として欧米先進国市場を開拓することを目的としたものであり、主な生産地は日本に置いたままの状態だ。1970年代までの海外進出のほとんどがこの類型に含まれる。

 1980年代に入るとアメリカをはじめとする先進国との貿易摩擦問題が表面化した。その問題への対処に加え、欧米向けの生産能力を増強する目的もあって先進国での現地生産が広がっていった。これが第Ⅱ類型である。

 その後、新興工業国・地域(NIES)などの台頭により海外での市場競争が激しくなると、生産コスト低減のため新興国に製造拠点を移す第Ⅲ類型の海外進出が増えていった。

 そして、ここ10年ほどは経済成長が著しい新興国を新たな市場ととらえ、新興国で生産して新興国で売るという第Ⅳ類型での海外進出を目指す企業が増えてきている。

 第Ⅰ〜Ⅲ類型まで生産地は日本から欧米、新興国へとシフトしているが、販売先である市場は常に日本および欧米先進国である。つまり、直近まで日本企業にとって海外事業の主要課題は製造オペレーション管理であり、1960年代以降一貫して先進国市場をターゲットとして経験を蓄積してきたのである。

 進出類型により求められる組織能力は異なる。第Ⅰ類型では先進国市場での営業能力がカギであり、第Ⅱ、第Ⅲ類型ではそれぞれ先進国、新興国での製造オペレーション管理能力がカギとなる。日本の製造業の生産オペレーション管理能力は全般的に高く、先進国で培ったその能力を新興国に移植する作業は困難を伴いつつも成し遂げてきた。