会計を国際基準に揃える
千載一遇のチャンス到来
新基準適用は煩雑な対応が必要ですし、売上高などの決算数値も変動するなら、強制適用になるまでやめておくという選択も可能ですよね。
たしかに、そのような判断もあるかと思います。ただし、IFRSや米国基準では2018年度から強制適用になることを、少なくとも重要な海外連結子会社を持つ企業は、重く受け止めなくてはなりません。そうした企業の多くで、日本の親会社は日本基準、海外子会社はIFRSか米国基準で個別財務諸表を作成し、一部修正はあっても、原則としてそのまま連結するという、世界的に見て特殊な方法が取られています。これでは海外の投資家や監督当局から厳しい評価を受けるだけでなく、連結経営管理にも課題が残ります。
たとえば、ビジネスのボリュームで米国が7割、中国が2割で、日本はR&Dと本社機能だけという会社の場合、親会社が日本基準でやっていようがいまいが、9割はIFRSか米国基準で連結されており、新基準の影響を受ける状況にあるわけです。
経営者の立場に立てば、米国子会社が米国基準で今期150の売上で、同じ事業で同じ成果を上げた日本の親会社は日本基準で180になる場合、これらを単純に合算して、本当に連結グループ経営ができているといえるでしょうか。これは経営管理の視点からすると、ある意味、致命傷かなとも思える部分でもあります。
企業経営者は難しい決断を迫られることになるわけですね。
1990年代以降の会計ビッグバンにおいて時価会計の導入、退職給付会計、減損会計など、日本の会計基準はグローバルスタンダードに近づくように切り替えられてきました。これらはすべて即時強制適用でしたから、経営者はこれに従わざるをえませんでした。ところが今回は早期適用が認められる一方で、強制適用までは時間があるため、導入時期の判断は経営者に委ねられています。自社にとって新基準適用に伴う負荷とメリットでは、どちらが大きいのかと考えながらの決断になります。
新基準適応のハードルはけっして低くないようです。新基準適用のための対応は多岐にわたり、さまざまな負荷がかかりそうです。
たしかにさまざまな対応が必要になります。たとえば、業務システムと会計システム等が一体的に運用されるERP(基幹情報システム)を利用している企業は少なくありませんが、従来、それらのシステムが契約単位をキーとしてつながっていたものが、新基準適用で必ずしも契約単位ではつながらなくなるため、業務システムの見直しが必要になるでしょう。
また顧客との契約条件の確認や見直し作業も発生するかもしれませんし、社内組織や人材の対応のためのトレーニングなども必要になります。
しかし一方で、新基準の適用は、収益認識、つまり売上という企業の活動の根幹を形成する最重要部分を、連結グループ共通の会計基準で揃えることが可能になる、千載一遇のチャンスと見ることもできるわけです。せっかくルールが揃ったのだから、我が社も変えましょうという判断があってもおかしくないと思います。
無論、企業文化などによって適用の是非は変わってくるでしょうし、自社のオペレーションがグローバルなのかドメスティックなのかによって、適用のメリット、デメリットは大きく違ってくることでしょう。しかし、経営者が負荷だけを考えるのではなく、新基準適用でどんなメリットがあるのか、これをどれだけ経営に活かせるのかを考えることが重要で、それが結果として影響や負荷を抑えることにつながると考えます。
*【第2部】につづく
- ●企画・制作:ダイヤモンド クォータリー編集部