経営パートナーとしての
監査人

  高い監査品質を担保すると同時に、マネジメントから信頼され、事業リスクや成長ストーリーをともに語り合うことのできる監査人をいかに確保するか。これは監査法人にとって大きな挑戦だと思います。どのように人材育成を図っていきますか。

  あずさ監査法人には現在約3200人の公認会計士が在籍し、毎年多くの人材を採用しています。ただし、育成に特効薬はないので、10年という長いスパンでさまざまな機会をとらえて、真のプロフェッショナルに育て上げています。

  プロフェッショナルとは何かといえば、私は専門知識やスキルはもとより、高い倫理観と責任感が備わっていることが絶対条件だと思っています。こういうものは、いくら教育や研修の場を設けてもそれだけではダメで、やはり実際の監査業務を通じてパートナーや同じチームの先輩が、何が正しいことなのか、我々が追求すべき監査の品質とは何かをディスカッションしながら浸み込ませていくよりほかにありません。
  一方、マネジメントの信頼をいかに勝ち取るかについては、最終的には人間力なんだと思います。同じ監査メソトロジー(方法論)を使っていても、マネジメントとどんな話ができるか、本音を引き出せるかについては個人の力によるところが大きいでしょう。

  私自身、必要以上に構えられるのを避けるため、トップマネジメントにインタビューする際は丸腰で行くようにしています。録音はおろかメモも取らないし、余計な資料も持ち込まない。これは同席するチーム全員にも課しています。もちろん後から記憶に基づいて議事録は作成しますが。

  この人間の話なら聞いてみようという気持ちにマネジメントがなれば、正式なインタビュー以外にも気軽に声をかけられたり、「監査法人のあのパートナーに聞いてみて」とトップが指示することも出てくる。マネジメントから最も遠い立場にあるようで、実は近いところからサポートすることもできるのが、監査人の仕事です。

  信頼は積み上げるのには時間がかかりますが、失う時は一瞬です。だからこそ、職員一人ひとりが高品質な監査を提供するという社会的使命を忘れず、法人としても理念と価値観を共有して、強固な組織基盤をつくり上げていかなければならないと思っています。

*連載【第3回】はこちらです


  1. ●企画・制作:ダイヤモンド クォータリー編集部