価値創造に不可欠な
余白づくり
茶谷:ちなみに佐宗さんは、妄想力を鍛えるために、普段どうされていますか。心がけるポイントなどがあれば教えてください。
佐宗:妄想力を鍛えるには、思いっきり自分らしい思考ができるための時間、つまり「余白」を持つことがとても大事です。
実は僕自身の余白づくりとして、育休を取得しました。仕事を離れて家事をやったり、長時間子どもと一緒に過ごしたりすることで、毎日いろいろな学びがある。たとえばお絵描き一つにしても、子どもの目線を知ると大きな発見があるのです。つまり、同じような時間を過ごすのではなく、あえて自分の生活に変化を組み込むことが重要です。それを繰り返すことで、妄想が生まれやすくなります。
茶谷:新しいアイデアを思い付くには、「3B」(Bus, Bed, Bath)が必要だといわれますね。これも余白の一つでしょう。
私の余白づくりを挙げるとすれば、趣味の書道です。文字というのは不思議なもので、無の境地にならないとうまく書くことができません。幸い、墨の香りが気持ちを落ち着かせてくれますので、自然と頭を空っぽにすることができます。あと、ワインも好きですね。五感を刺激する楽しい時間がクリエイティビティにつながっていると感じます。
ちなみに、クリエイティビティを学ぶお薦めの方法が一つあります。それは「SF」です。小説や映画などでクリエイターが描く未来像は、実際その何十年か後に現実のものになったりしますから。妄想を生み出す大きなヒントになるのではないでしょうか。
佐宗:スマホを手放し、自分モードのメディアと向き合うことも余白づくりになりますね。スマホというのは、他人の情報を見たり、他人に承認を得たりする、言わば他人モードの媒体です。あれを見ている限り、なかなか自分と向き合うことはできません。
ですから一定時間スマホから離れ、通勤時間だけでも自分が感じていることを手帳などにメモすることもお薦めです。手を動かすことは脳への刺激にもなるし、考えを整理できるだけでなく、習慣化すれば、自分ならではの言葉や世界観を持てるようにもなります。
イノベーションを創発させる
リーダーの条件
茶谷:妄想力を鍛えることは、組織メンバーだけでなく、当然ながらリーダー自身にも求められます。佐宗さんは大手企業のさまざまなリーダーと共創型の戦略デザインに取り組んでいらっしゃいますが、イノベーションを創発させるクリエイティブリーダーには、どのような条件がありますか。
佐宗:僕は、創造的な組織文化をつくるには「リーダーがあまりはっきり具体的な方向性を示さないほうがいい。そのほうが結果的に組織は強くなる」という仮説を持っています。失敗を許容したり、面白いものに共鳴したり、外からアイデアの種(シーズ)だけを持ってきて埋め込んだりというように、組織の土壌を耕すだけでいい。
ただし、「どんな作物を育ててもいいけれど、ここはこういう土地だからね」という思想や価値観、つまりビジョンやミッションだけはしっかりと伝える必要がある。これがリーダーの役割だと考えています。
茶谷:ある程度、強いリーダーシップがないと組織はまとまらない時もありますが、何をやるかという細かいことは、メンバーそれぞれに任せたほうがいいということですね。
私が考えるリーダーの役割を加えるとすれば、時間軸と資源配分です。メンバーとは違った少し高い目線で、かつ長い時間軸で将来を見通すこと。さらにそれを事業戦略とひも付け、必要な経営資源を確保し、きちんと配分していくことに力を割くべきだと考えます。
長らくCTOを務めてきた私の場合は、陳腐化した技術をどうやって時代に合った新しい技術へとシフトさせるか。そのためのヒト、モノ、カネという経営資源の配分が一番の仕事でした。周囲とコンセンサスを取りながらアクションを決定し、時に組織の贅肉を落としながら能力を変化させていくのは、相当難しい。だからこそ描いた将来像をわかりやすいストーリーで説明し、メンバーに納得してもらわないといけません。でないと、ただのリストラと誤解されてしまいますから。
佐宗:特に技術というのは進化論みたいなところがあって、ある程度の法則性を持ってアップデートしていく必要がありますね。ただ、事業をアップデートさせようとすれば、従来の文化と新しい文化の衝突が起こります。全然違うキャリアや個性を持った人たちがごっちゃになるため、そこをどうマネジメントするかがリーダーの腕の見せ所です。茶谷さんは実際どのようにされていましたか。
茶谷:みんなでしっかりと未来像を共有する、そのための努力しかありません。もちろん、全員が一気に腹落ちするわけではないでしょう。変化は将棋倒しのように徐々に広がっていくものです。すき間があったりすれば倒れた駒が次の駒に当たらず、将棋倒しが途切れてしまうこともありますからね。そのあたりも含めて、丁寧なマネジメントが大切です。
ただし、それでも軋轢が生まれてしまうことがあります。その場合は、あえて別々の組織にするという判断も必要になるでしょう。同じ時間軸や価値観を共有できる人を集めて構成するというスタイルです。