不正検知に留まらない
データ経営の真価
不正検知以外でも経営に貢献できますか。
丸田:日本企業はいま、2つの課題に直面しています。第1に、環境変化が激しく業績のボラティリティが大きくなっているために経験則が通じず、予算や前期との比較だけではトレンドを正確に把握することが難しくなっていること。第2に、業務の細分化やコンピュータ化が進んだ結果、全体像が見えにくい状況にあること。そのため管理人材が育ちにくく、俯瞰(担当領域、期間)で見ればわかるはずの問題が見過ごされてしまう。ビジネスだけが大きくなって管理が追い付いていない状況に、危機感を抱く経営者は少なくありません。すべての取引データを対象とするAI監査は、この2つの課題解決に貢献します。
まず経営に関するあらゆる情報を可視化することにより、データに基づいた判断と施策が可能となります。また内部データに人やモノの移動、決済、センサーなどから得られる外部データを掛け合わせることで、さらに深い知見が得られるようになります。不透明性を増す環境下でバイアスを排して変化をとらえるため、未来志向の示唆や気づきを与えてくれるデータは大きな支えとなります。
菅谷:不正検知と経営の高度化は直接関係しないように思われるかもしれませんが、実はつながっています。不正は経営管理の不備や非効率などの問題があるところで起きる傾向があるからです。不正検知と防止は経営課題の解決にもつながります。
AI監査に抵抗を感じる経営者もいます。導入に向けた課題は何でしょうか。
丸田:本格導入にはデータの標準化、ルール整備、人材育成などの課題を乗り越える必要があります。ただ、そうしたインフラ整備以上に重要なのが、関係者のマインドセット改革です。全取引をリアルタイムで監視されるととらえれば抵抗を覚えるかもしれませんが、AI監査が企業価値向上につながることはお話しした通りで、企業と監査人の双方を利するものです。監視する側とされる側という関係から、共創へと思考を転換することで、新たな関係性が築けるはずです。
そのためには監査法人が一方的にデータを収集、利用するのではなく、企業みずからデータにアクセスして有効活用できるようにすることが必要です。そうすれば経営者も直接的にメリットを感じられます。
インターネットを凌駕する
ブロックチェーンのインパクト
AIの判断プロセスはブラックボックスで、回答の理由や根拠が説明できません。この点、監査では特に問題ではないでしょうか。
丸田:おっしゃるように常に説明責任が問われる監査業界では、AIロジックをどう説明するか、さらにAI自体をどう監査するかが大きな課題となりますが、これを解消するうえで期待されるのがブロックチェーンです。情報がオープン化され、ログ管理が可能なブロックチェーンの特性により、ブラックボックス化されたAIアルゴリズムを解明し、説明できるようになります。