執行と取締役会をつなぐ
2つの共通言語
取締役会の機能強化のもう一つの課題である「運用」についてはいかがでしょうか。
土屋:投資家は、取締役会の構成だけでなく、そこでの議論の中身にも強い関心を抱いています。我々が社外取締役を対象に実施した調査では、「後継者計画の策定」と「資本コストを意識した業績評価」が突出して高かった。
資本コストについては先ほどお話しした通りですが、企業がゴーイングコンサーンであることを前提とした場合に、中長期的に企業価値を向上させるには後継者育成計画(サクセッションプラン)が重要であり、その具体的な中身について聞きたい、という投資家が増えています。
その作成と実際の育成に当たっては、ビジョンや長期戦略を踏まえたうえで経営者に求められる資質や能力、経験などを明確する必要がありますが、日本では、取締役会が後継者育成計画に関する検討や議論を行っているところは、まだ少数に留まっています。
林:取締役会での議論を深め、建設的なものにするには、経営陣との間に「共通言語」が不可欠であり、KPI(重要業績評価指標)と事業リスクの認識がそれに当たります。
戦略を個々の施策や活動に落とし込み、KPIでその進捗と成果を測定すると同時に、将来に向けた事業シナリオを描き、その背後に潜むリスクを洗い出し、経営陣と共有する。その結果、取締役会の監督の質も高まり、経営陣との関係やコミュニケーションもより建設的で効果的なものに進化していくはずです。
投資家が注視する
ESGリスク
ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)に積極的に取り組む企業が増えています。
土屋:そもそもESGは企業活動において常に向き合わなければならない問題であり、いまに始まったことではありません。ところが近年、技術進歩、規制強化、災害リスクや地政学リスクの高まりから、企業価値が毀損されるおそれがかつてないほど高まっており、ビジネスチャンスを持続的に追求するためにも、ESGにまつわるリスクをどのように低減させるのか、投資家はよりいっそう知りたがっています。
林:とりわけ懸念しているのは「レピュテーション・リスク」、より具体的にはブラック企業のラベルを貼られることです。
厳密な意味で企業側に責任がなかったとしても、そのように評価されてしまうこと自体、従業員をはじめステークホルダーと企業との間に、看過できない断絶が生じている証拠と見られてしまいます。その結果、優秀な人材が流出したり、消費者や顧客が離反したり、ブランド価値が傷ついたりすれば、そのダメージは計り知れません。
土屋:欧米企業では、ESGへの対応が経営陣と取締役会の双方にとって極めて優先度の高い経営課題になっています。ESGは潜在的な財務リスクであり、リスクは顕在化してしまってからでは手遅れであることを、いま一度思い出していただきたいと思います。
- ●企画・制作:ダイヤモンドクォータリー編集部