
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第21回では、ビジネスマンに必要な「運」の正体について解説する。
世界チャンピオンになった男は「並の人間とは運の強さが違う」
前回仕上げた特製のTシャツを手に、格闘技イベント「豪腕」の記者発表会にやってきた主人公・花岡拳たち。人気タレント・中原綾名を担当する広告代理店の人間にTシャツを渡すことはできたが、実際に中原が発表会で花岡たちのTシャツを着てくれるかは分からない。
Tシャツを作成した社員・平岩八重子(ヤエコ)らが心配する中、花岡は自身がボクシングで世界チャンピオンになった男であり、「並の人間とは運の強さが違う」と、絶対の自信を示す。
花岡たちが会場で待つ間、控室ではちょっとした騒動が起こる。中原や彼女の事務所の人間が「中原のイメージが崩れる」として、これまで豪腕グッズとして販売してきたTシャツの着用を拒否。関係者たちは、責任の押し付け合いをはじめる。
その時、花岡からTシャツを預かっていた代理店の担当者が決意を込めた表情を見せ、こう語った。
「大丈夫です…僕にまかせて下さい」
はたしてタレント・中原は会見にどんな衣装で現れるのか?
ペイパル創業者が信じる「運」の正体

人気タレントが自分たちの手がけたTシャツを着てくれるのか――その瞬間を待つ花岡たちの緊張感というのは、「はたして自社の製品が市場に受け入れられるのか」を考える起業家、いやビジネスマン全員に共通する思いだろう。
花岡は自身の運の強さを信じるが、果たして世のビジネスマンはどれほど「運」を信じているのか。
企業経営において、運を重視する話は珍しくない。
今では時価総額数千億円を誇る上場企業となった、かつてのスタートアップ企業のオフィスを訪れた際にも、社長室に小さな神棚を見かけたことがある。神棚に限らず、吉方位や風水などでの開運にこだわる起業家も、意外と多い印象がある。
とはいえ、彼らが考える運というのは、「たまたま天から幸運が降ってくる」というようなことではない。できる手をすべて打ったあとに、あとは天や神に祈る――まさに「人事を尽くして天命を待つ」ということなのだろう。
つまり、「自分たちの行動の結果として、期待する未来を呼び寄せること」こそを「運」と考えているのだ。ペイパル創業者で投資家としても有名なピーター・ティールも、著書『ゼロ・トゥ・ワン』(NHK出版)の中で、同様の哲学を語っていた。
Tシャツ製作に全力を尽くし、運や偶然を「必然」に変える努力を積み重ねた花岡たち。次回、その成果が彼らの環境を大きく変えることになる。

