「視覚化記憶術」をトレーニングする

 音で情報を吸収しようとして何度も声に出すとき、脳は一度にごく少量のデータしか受け入れない。イメージで学ぶときには、もっと多くの情報をもっと速く吸収する。これを日常の場で活かすには具体的にどうすればよいのだろうか?

 たとえば、新聞を読むとき、記事の内容を映画のように視覚化してみよう。最初は、視覚化しやすいものから始めるのがよいだろう。経済や国際政治の記事より、強盗事件を扱った記事のほうがやりやすい。

 強盗が逃げている場面を想像しよう。銀行から飛び出してきて、歩道を一目散に走っている。体格は? 服装は? 黒い帽子、緑色のジャケット、黄色のズボンだ。拳銃を抜いた2人の警官が追いかけている。それが見えているか? そのイメージをしばらく維持するように、頭に頑張ってもらおう。

 次にその光景にもっと接近する。強盗の目や髪をよく見てみよう。どんな顔をしているのだろう? 強盗が逃げている道路についても詳しく見ていこう。

 たぶんあなたは、これまでも意識せずに同じようなことをしてきたはずだ。たとえば、小説を読んでいるとき。しかし無意識ではなく意識的にイメージを思い浮かべるほうが、細部までよく記憶することができる。何度もやっているうちに自然にできるようになる。イメージが自動的に浮かぶようになり、視覚化によって知識を定着させることが新しい習慣になる。

 自分は「視覚型の人間ではない」と思う人も、視覚化が得意になるように励むべきだ。まず簡単なものから始めること。目を閉じて、犬を視覚化しよう。最初に頭に浮かんだ具体的な犬種を選んでイメージする。視覚化するときは、最初に頭に浮かんだものを使うのがよい。

 次に、そのイメージを拡大しよう。どんどん拡大して、細部まで詳しく見ていこう。視覚化は三次元の立体にすることが重要だ。それは平面的なイメージより長く脳に残る。

脳が磁石のように情報を定着させる

 最初は犬や新聞記事だったとしても、マティアスによれば、そのうちに数字や突拍子もない数式まで、あらゆる情報を視覚化する習慣が身についてくるという。

 彼は、だれかの話し声が聞こえてくるたびに、このスキルを練習することを勧めている。声に耳を傾けながら、どんなイメージが浮かんで脳にとどまるかを見届けよう。本気になって細部まで集中すると、よく覚えられる。定着したイメージは、脳が元々の情報へとさかのぼるための手がかりになるだろう。練習しだいで、あなたの脳はまるで磁石のように新しい情報を引き寄せて、保持するようになる。

 もちろん、視覚化の技術はなんら革新的なものではない。過去数千年にわたって実践されてきた古来の発想だ。

 僕はチベットに瞑想を習いに行ったとき、僧侶から、寺院で何時間も目を閉じて座り、とてつもなく詳細な視覚化をするように命じられた。「仏陀を思い浮かべなさい」ではなく、「蓮華座に着いた仏陀を思い浮かべなさい。蓮華座には階段が3段ある。各段に花びらが6枚の花が3つ描かれている」といった調子だ。仏陀の着ているものや座っている姿勢の描写に至ったころには、イメージを丹念に作り込むしか記憶する術がなくなっていた。

 当時、僕はまだ、視覚化とは言葉を覚えることではなく頭の中に絵を描くことだと理解していなかったが、チベットで行ったことは、まさにその視覚化だった。

 マティアスほどのレベルになると、創り出したイメージをスクロールして、情報を無限に保持できるという。スマホの画像を閲覧するようなものだ。脳内にイメージがあるので、マティアスは元の情報をあらためて参照する必要がない。

 彼が視覚化の練習をするのは静かな時間、たとえば人を待っているときや歯を磨いているときだ。一度に数個のイメージをスクロールして記憶にとどめていくという。(中略)

 とにかく重要なのは、イメージだ。詳細に視覚化すれば、丸暗記では不可能な知識を得ることができる。

 言葉には限界がある。どんなにたくさんあるとしても有限だ。しかし、イメージは無限なのだ。そのイメージと同様に、脳のハードウェア、ソフトウェア、配線をアップグレードすれば、あなたの可能性もまた無限に広がっていく(脳の機能アップ法については、本書第2章を参照)。

(本原稿は、『シリコンバレー式超ライフハック』〈デイヴ・アスプリー著、栗原百代訳〉からの抜粋です)

デイヴ・アスプリー(Dave Asprey)
シリコンバレーのテクノロジー起業家、バイオハッカー
ブレットプルーフ360創業者兼CEO
シリコンバレー保健研究所会長
バイオハックの父と呼ばれる。ウォートン・スクールでMBAを取得後、シリコンバレーで成功するも肥満と体調不良に。その体験から、ITスキルを駆使して自らの体をバイオハック、世界トップクラスの脳科学者、生化学者、栄養士等の膨大な数の研究を総合し、自己実験に100万ドルを投じて心身の能力を向上させる方法を研究。自らもIQを上げ、50キロ痩せたその画期的なアプローチは、ニューヨーク・タイムズ、フォーブス、CNN、LAタイムズ等、数多くのメディアで話題に。ポッドキャスト「ブレットプルーフ・ラジオ」はウェブ界の最高権威、ウェビー賞を受賞するなど絶大な支持を誇る。著書に『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』『HEAD STRONGシリコンバレー式頭がよくなる全技術』(ともに栗原百代訳、ダイヤモンド社)など。

栗原百代(くりはら・ももよ)
翻訳家
1962年東京生まれ。早稲田大学第一文学部哲学科卒業。東京学芸大学教育学修士課程修了。訳書に『相性のよしあしはフェロモンが決める』(草思社)、『レイチェル・ゾー・LA・スタイル・AtoZ』(メディアパル)、『啓蒙思想2.0』『反逆の神話』『資本主義が嫌いな人のための経済学』(NTT出版)、『しまった!』(講談社)など。