(3)興味関心範囲(時間・空間意識)
――皆が何を話題にしているのか。たとえば南米の気候の話か、20年前の業界秩序の在り方か、取引先の新技術か。いろいろなことが聞いていないようでなんとなく耳に入ってくる。その結果、自分の会社がどのような時間と空間に存在しているかがわかるようになる。
(4)エネルギー発現から見える優先順位
――職場として、そのことが優先して取り組むべきことなのか、熱量が高まっている案件なのか、その「場」にいることで機運やある方向に動いているという手応えがわかる。
(5)社会的プレッシャー
――全エリアマネジャーの前で毎回営業担当が発表し、幹部からの感情をともなったチェックが入り、一同がそのジャッジに恐れおののくといった場があれば、オンラインで全国会議をするよりは、やはりリアルな場の圧力が感じられて身が引き締まるであろう。
(6)褒める、叱る行為から見て取れる規範意識
――職場の誰かが褒められ、叱られている場をそれとなく見聞きすることで、皮膚感覚で「ここに地雷がありそう」「今これをやれば褒められそう」というセンサーが働くようになる。
これらは協働のルールであり、すべての協働行為の前提でもある。知っていて使える人と、使えない人では協働能力に大きな差が出る。その会社に所属する社員は、これまで長い時間会社にいて、無言有言、さまざまなコミュニケーション行動のなかで、膨大な時間をかけて、知らず知らずのうちにこれらのルールを学んでいる。一方、転職してきた人などの新規参入者は、これらの前提や規範を知らない。オフィスに行かず、オンラインだけでこれらを学ぶには情報の絶対量が、決定的に不足している。お互いが協働のルールを良く知っている場合にはオンラインは効率的だが、新しい人が入ってきて同じことを相手に求めるのは厳しい。
もちろん、元々いた社員であっても、オフィスで仕事をする機会が減れば、(3)や(4)のようなビビッドな情報がどんどん欠けてくる。人や社会、会社も時々刻々変わる。会社の向かっている方向性や戦況、戦術の調整、力の入れる先などがわからなくなってきて、全体のベクトルが合わなくなる。褒められる仕事が変わっているにもかかわらず、ずれた成果をずれたやり方で追い求める可能性が大きくなる。
従来の会社組織でも、無言のコミュニケーションや、ニュアンスの読み取りといったことが苦手な人は苦労することが多かったように思う。任された業務Xがあったとして、ほかの社員の間ではそのXは適当にやりすごしておけばよい業務であることが暗黙裏に共有されているのだが、本人だけが気づかず本気で取り組んでしまう。仕上がったものを報告したら、「それ、別に形だけ整えてくれればいいのに、今まで何やっていたの」などと言われてしまうといったようなことである。リモートワーク環境下では、ことさら“KY”でなくても、そういった「塩梅(あんばい)」や「加減」がだんだんわからなくなる。