コロナ時代の管理職に課された
5つの高いハードル

 そうなると、従来の管理職ではいろいろな“無理”が出てくる。

1. その領域においての専門性が高くないと無理
――指示的に機能するためには、仕事そのものを深く知らなくてはならない。“素人”管理職がローテーションで配置されると、具体的な指示ができず業務全体が崩壊する(おそらくとんでもない量のリモート会議が設定され、何が何だかわからなくなる)。

2. プレーヤー兼任など無理
――個々のメンバーに対してのきめ細かい情報交換が必要であり、片手間で指示的な活動はできない(これまでは個々の社員の自動調整機能があるから管理職とプレーヤーの兼任も可能であったが、自動調整機能がなくなれば、マネジメントを専任でやるしかない)。

3. 全体と個の関係が頭に入っていないと無理
――従来は人が勝手に動いて調整してくれていたが、メンバーの業務が全体の中のどの役割を担っていて、一部の変更がどこにどのように影響するか認識し、それに基づいて指示の言動ができなければ無理(どの人のどの仕事が全体にどう影響するかがわからないと調整もできない)。

4. 言語化力が高くないと無理
――曖昧な情報提供ではなく、わかりやすく抽象度の高いところから具体的なところまで明確に言語化できなければ無理。「あれ、適当にやっといて」などという指示はありえない(適当にやれるのは、社員一人ひとりに自動調整できる情報があったから。なくなれば具体的に指示してもらわないと仕事ができない)。

5. メンター力が高くないと無理
――個々のメンバーの力量を把握し、励まし勇気づける力がないと無理。そもそもリモートワークでは、仕事への興味関心を維持させることですら難しい。また、上司部下間で雑談をすることもできなくなり、部下側もちょっとしたことをすぐに相談できない。

 現在の一般的な管理職にとってみれば、かなりハードルの高い能力が求められることになる。3や4はプロジェクト・マネジャーのスキルであるし、5については、場合によってはそのための専門職を社内に抱えたりして、管理職をサポートするのもよいかもしれない。いずれも、これからは必須の能力であり、そのための能力開発が必要となるだろう。特に5のメンター力に関しては、できているつもりでも部下をつぶしているだけの人もいるので要注意だ。もちろんそれはリモートワークに限ったことではないが……。
 
 そして皆が対面で集まる貴重な機会には、管理職は全体の方向性の明示と個別具体的な指示を出せなくてはならない。それを前提にしたうえで各部署、各担当者同士など、各自の調整がそれに続く。良しあしの話ではなく、例えば欧米のグローバル企業などは、もともと社員同士が遠隔地で業務をしているので、強力なビジョンをもとに、戦略戦術を明示的に社員に浸透させる方法を確立している。日本企業はその凝集性の高さゆえに、そこまで重視しなくてよかったのだが、これからは非常に重要になる。

 いずれにしても、これまでの調整型マネジャーは機能しない。管理職はディレクティブになれるのか、できるのか。コントロールタワーなしのリモートワークはあっという間に崩壊するであろう。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)