ただ、日韓関係が最悪といわれる状況下、文政権が本当に資産の現金化を容認するなら、わが国政府としても黙っているわけにはいかないはずだ。その場合には、文政権は相応の覚悟が必要になるだろう。文政権は強硬な反日のスタンスに固執せず、歩み寄る態度を通して対話による両国の関係改善を目指す姿勢を示してほしいものだ。

元徴用工への
賠償問題の経緯と現状

 2018年10月、韓国の最高裁は当時の日本製鉄に対して元徴用工への賠償を命じた。韓国最高裁は三菱重工業などにも賠償を命じた。最高裁判決に従って、大邱地裁の浦項支部は、韓国国内において日本製鉄が保有する資産の差し押さえを認めた。具体的な資産とは、日本製鉄と韓国鉄鋼大手ポスコの合弁企業であるPNRの株式の一部だ。

 わが国は、「韓国の司法判断は受け入れられない」との立場を貫いている。日韓の請求権問題は日韓請求権協定によって最終的に解決されているからだ。それが、戦後の日韓関係の基礎になった。国家間で最終的な合意に至った請求権問題を蒸し返されても、わが国が対応することはできない。それが国際社会の常識でありルールである。韓国の裁判所はわが国外務省に日本製鉄に資産差し押さえを伝えるよう求めてきたが、わが国がそれを拒否したのは国家間の協定に基づいた当然の対応だ。

 そう考えると、今回、大邱地裁の浦項支部が日本製鉄に公示送達を行った意味は重い。それによって、PNRの株式差し押さえの通知書類が届いたとみなされる。韓国地裁は8月4日午前0時に公示送達の効力が発生するとしている。それ以降に韓国の裁判所が命令すれば、制度上、原告団は株式の売却に向けた手続きを進めることが可能となり、わが国企業に実害が生じる恐れがある。また浦項支部の判断が、他の地裁が担当する日韓の賠償問題に影響する展開も軽視できない。

 わが国は韓国に対して、自国の企業に実害が及ばないよう繰り返し対応を求めてきた。公示送達に関してもわが国は国際法違反であるとの立場を明確に示し、現金化に向けた手続きが進む前に問題を解決するよう韓国に求めている。

 その一方で、韓国の文大統領は、「司法の判断を尊重する」との立場を示すにとどまっている。8月4日まであまり時間はない。韓国が実際にどういった対応をとるかは不透明だが、わが国は自国の企業に実害が及ばないようあらゆるシナリオを念頭に置いて対策を整えなければならなくなった。