さらにコロナ危機は家計に対しても、将来の不確実性に備えることの重要性を改めて教訓として残すだろう。人々は以前よりも貯蓄への意識を高めるのではないだろうか。

 つまり、企業や家計が慎重な支出行動を続ける中で、政府は財政再建に着手する、というのがコロナ後に最も起こりそうなことなのである。

 未曽有の財政政策が打たれているから将来インフレになるのではなく、未曽有の財政政策が今打たれているからこそ、将来はその反動が予想されるのだ。

「新様式」でのコスト上昇も
広範な物価上昇にはつながらない

 一方、コロナ危機が強い影響を及ぼし続ける当面の間は、さまざまな財・サービスのコストがほぼ確実に上昇する。最も明白なのは「新しい生活様式」のコストである。

 社会的距離を確保するために、飲食店は席数を減らし、各種の娯楽施設の収容人数も制限される。「密」を前提としていたビジネスは、コロナ禍では価格を上げずに採算を確保するのが難しい状況になっている。

 実際、高級レストランではディナーコースを大幅に値上げしている例がみられるし、あるライブイベントではチケット価格がほぼ2倍に引き上げられた。米国では、感染防止対策や物流費など上昇したコストを回収するため、コロナ・サーチャージを課す動きも広まっているようだ。

 しかし、こうしたコストプッシュ型の価格上昇が、物価全体に与える影響は限定的なものにとどまるだろう。

 第一に、コスト上昇分を価格にフル転嫁できるケースは限られる。

 人気の高いレストランやイベントなら強気の価格設定も可能だが、多くの場合はそうではない。コスト上昇を価格に転嫁できず、事業の縮小や撤退を選択せざるをえないケースの方がむしろ多いだろう。

 第二に、部分的にせよ価格転嫁ができたとしても、それはそれで消費者の財布を直撃する。

 とくに、賃金が上がらない中での価格上昇は、家計にとっては消費税率の引き上げと同じであり、ただでさえ今の厳しい消費不況をさらに深刻なものとする恐れがある。

 もちろん、生活必需品なら価格が上がっても買わざるを得ないが、消費者はその分、ほかの出費を抑制する可能性が高い。

「インフレ期待」上昇が起きにくい
1970年代と今の決定的な違い

 ある年齢層以上の人々は、1970年代の石油ショックを記憶しているだろう。石油価格の高騰というコストの上昇が、おりしも列島改造論で積極的な財政支出が行われていたこともあって、全般的な物価と賃金のスパイラル的な上昇を引き起こした。

 こうした現象は、日本だけでなく多くの先進国で見られた。