今回、被害を訴えた女性はプライバシーを配慮されて法廷で「Aさん」と匿名で呼ばれたが、一審で、つい立ての中から心情を意見陳述した。その声は法廷内によく響き、さまざまな話があり、処罰感情がよく伝わる強い口調だった。

 その内容は、信頼していた外科医の行動に対するショックを受けたという気持ち、事件を訴えたら母親に心労がかかる、病院にも迷惑になる、男性外科医の今後はどうなるだろうということまでグルグルと考えたこと、だが訴えても証拠がないと泣き寝入りになってしまうため、気持ち悪かったが警察が来るまで男性外科医の唾液がついたままの状態で我慢していたことなどが詳細に語られた。

 その後の精神的苦痛については、「『どうして、手術した病院へ行かないのか』と聞かれたら困るため、他の病院へも行けなくなったこと」「病院側が男性外科医ばかりを擁護することに対する悔しさと怒り」なども語られた。

カルテへの記載と
証言内容が合致していない

 判決文によると、女性の証言の証明力を高めたのは、主に、(1)カルテにせん妄や幻覚に関する明確な記載がないこと、(2)検察側専門家証人の「当時、女性患者はせん妄だった可能性はあるが、幻覚を伴ってはいない」という証言だった。

 事件当日、手術が終了し病室へ運ばれたとき、女性患者の意識状態はJCS200(Japan Coma Scale,ジャパン・コーマ・スケール。200は痛み刺激に対し覚醒しない状態、少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする)で「痛い痛い」と繰り返し、看護師が話しかけても応じなかった。看護師はこのときのことを「検温をしようと女性の衣服をめくって、体温計をわきの下に挟もうとしたら、突然、『ふざけんな、ぶっ殺してやる』とかすかな声で言われた」と一審で証言した。このとき、女性の目は開いていなかったという。

 この看護師は、何か患者の気に障ることをしたのだと思い、別の看護師にこの発言を申し送らず、カルテにも記載しなかった。一審の証言で「術後の患者にそう言われたことがなかったので、少しひるんだ」と話していたが、判決文の主旨は「病院にとって、カルテへの記載は重要なことにもかかわらず、申し送りも記載もなかったため、このときせん妄だったことについて疑問を差し挟む余地がある」とされた。

 さらに、別の看護師は女性患者のこの時間帯の状態をカルテに「覚醒良好」と記載した。その理由を「痛い痛いと発語があり、体を動かすことができていたので」と話し、証言時「あとで自分の認識が間違っていた」「半覚醒だった」と訂正している。

 判決文では、主旨として「カルテにせん妄や幻覚の記載がない上に、証言で異なる内容を発言して整合性に欠ける」として、その理由について、「証言が変わるということは病院関係者が口裏を合わせたのではないか」と指摘された。