では、「日本製造業は地上ではまだ強い。しかし、上空の制空権は一部のアメリカ企業に握られている、低空戦でも標準づくりが上手なドイツ勢が現在は優位にある」という現状認識を踏まえて、日本企業はいかに戦うべきか。端的に言えば、「強い現場と強い本社」の両立であり、より具体的に言えば、現場のものづくり能力の構築と、本社のアーキテクチャー戦略の構築を両立させることだと私は考えます。

 要するに、現場は統合型ものづくり能力にいっそう磨きをかけ、他に模倣されない製品を確保する。その一方で、本社は、明確なアーキテクチャー戦略を構築し、自社製品を囲む標準インターフェースを確立し、それを世界に認めさせ、それによって上空のプラットフォーマーと自社標準を通じて能動的に連結する。言い換えれば、上空のプラットフォーマーとつながってその成長の果実にあずかる一方で、相手の標準につながれてしまうことなく、自社の標準で能動的につながっていくのです。

 粘り強い「コテコテのものづくり能力構築」と、上空世界でも通用する「したたかなアーキテクチャー戦略」を両立させること、それが日本の製造企業が選択すべき道の一つです。とりわけ米中技術摩擦が本格化する2020年代、地上で存在感を維持する日本の優良製造業には、米中の両方が「面倒な擦り合わせ製品」を買いにやってくるという商機も到来しそうです。「どうせ負けるに決まっている」という、長年の負け癖に囚われた敗北主義的な一人言は何も生み出しません。

 そうした戦い方を実践し、成功している日本の製造業はありますか。

 どこの会社も問題は山積でしょうが、たとえばS社の自転車部品やM製作所の電子部品は、これに近い形で展開できていると思います。どちらも「コテコテのものづくり」で能力構築を続け、それによって確立したインテグラル型の「強い補完財」としての自社製品を、業界標準的なコア部品として世界に販売し、20%前後の利益率を実現しているといわれています。

 たとえば、M製作所がグローバルトップに君臨するセラミックコンデンサーは、スマホやPCや自動車など、多くの電子機器や機械製品に使われています。電気を蓄えたり、放出したりする、とても小さな電子部品ですが、スマートフォン1台に数百個から1000個以上使われます。これは、インテルの半導体チップと同様に、私たちが「中インテグラル・外モジュラー」と呼んでいる「アーキテクチャー位置取り戦略」です。

 アーキテクチャー位置取り戦略の詳細については別の機会に譲りますが、M製作所のセラミックコンデンサーは、高い技術力と生産技術、卓越した品質管理能力といった日本の伝統的なものづくり企業の強みを発揮することで、世界シェアが30%を超えるグローバルトップの事業です。しかもこの製品の市場で、グローバルな事実上の業界標準を確立しています。

 アメリカのアップルはもっぱらM製作所のコンデンサーを使っていますが、最近は、話題のファーウェイも、M製作所に買いに来ているという業界情報もあります。ある意味で、米中技術摩擦が生み出した商機ともいえるでしょう。要するに、自社標準と模倣が難しい現場力で、アメリカ企業や中国企業を相手に強気の商売をする。これからの日本企業が目指すべき一つの姿といえるでしょう。

 10年ほど前の話になりますが、自社のスマホ用にコンデンサーを内製しようと考えた韓国のS電子は、M製作所の3つの国内工場から相当数のコア人材を同時に引き抜いたそうです。しかし、その後を見る限り、M製作所の首位はいまなお盤石で、S電子の目論見はここでは成功していません。M製作所のコテコテのものづくり能力構築が生み出した競争優位といえるでしょう。

*つづき〈後編〉はこちら

●聞き手|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部)  ●構成・まとめ|荻野進介、岩崎卓也 
●撮影|朝倉祐三子  ●イラスト|モトムラタツヒコ