LEDが起爆剤となって照明の世界が大きく変わりつつある。センサー、ネットワーク、そして可視光通信など、照明を媒介にモノとモノがつながることで、「照明のその先」までもが一体となる近未来がすぐそこまで来ている。照明事業を祖業とするフィリップスは未来をどう見据えているのか。(取材・文/新井幸彦)

モノからコトへの流れの
中でLaaSを目指す

 照明事業を分社化する――2014年9月にオランダの総合電機大手フィリップスが行った発表が大きな話題を呼んだ。1891年に炭素フィラメント電球の販売から事業を起こした同社にとって、照明は言わば祖業ともいうべき分野。近年ではヘルスケア部門で大きな成功を収めているものの、照明事業が売上げに占める割合もけっして少なくない。

 その決断の背景にあったのが、LEDに代表されるデジタル化の流れ。PCを例に挙げるまでもなく、デジタル化によって高付加価値製品がコモディティ化するまでのライフサイクルは一気に短くなった。そこでは製品の機能や性能に特化するよりも、プラスアルファのサービスなどでいかに付加価値を提供できるかが重要になる。照明事業の分社化は、コモディティ化の波に飲まれる前に、照明メーカーから総合サービス業への脱皮を図ったと見ることができるだろう。

「モノからコト(サービス)へ、というのは電機業界だけでなく、あらゆる業界で起きている大きな流れです。それは、モノの所有ではなく『特別な体験』『便利な経験』を求めるユーザーのニーズにも合致しています」とフィリップス ライティング ジャパンの林田健悟社長は語る。そのうえで林田社長が示したのが、「LaaS」(Lighting as a Service)という考え方だ。

 IT業界で存在感を増すクラウドサービスの一分野に「SaaS」(Software as a Service)がある。これは、従来のようにソフトウェアを販売してPCやサーバーにインストールしてもらうのではなく、ネット経由のサービスとして提供するもの。ユーザーは電気や水のように必要な時に必要な分だけ利用し、その分量に応じた料金を支払う。

 この方式を照明にも適用しようというのがLaaSである。「照明だけでなく、それにかかった電気料金まで含めてサービスとして提供するというスタイルがすでに始まっています」と林田社長。

LEDのネットワークで
効率化、コスト削減

 その一つの事例として紹介するのが、アムステルダムにあるデロイト・トウシュ・トーマツのオランダ本社。イギリスの建築物性能評価制度「BREEAM」のサステナビリティ評価で98・4%という史上最高ポイントを獲得している一種のグリーンビルディングなのだが、ここでフィリップス ライティングの照明サービスが導入されているという(写真「デロイト・トウシュ・トーマツのオランダ本社」を参照)。

写真 デロイト・トウシュ・トーマツのオランダ本社 外壁に太陽光パネルを設置するなど随所で環境負荷軽減が施されており、LEDを活用した照明もそれに貢献している。提供:フィリップス ライティング ジャパン

「LED照明に組み込まれたセンサーが太陽光を感知して、日中は明るさを落とし、日没とともに明るさを増すようにコントロールされています。それだけでなく、人の動きも検知して、会議室などの設備の利用率もわかるようになっています。それに応じて清掃の頻度を調整するなど、ファシリティ・マネジメントの面でのコスト削減にも貢献しています」(林田社長)