マーベルの大復活を実現させた
「マネタイズ」と「価値提案」の一貫性

 マーベルのビジネスモデル改革の成果は、売り上げと営業利益といった実際の数値からも明確に読み取ることができます(図表2)。

 まずは、フェーズ2でライセンスによるマネタイズで再建に成功します。再建当時に売上高約2億ドルで営業赤字に陥っていたマーベルは、ライセンス収益を獲得する価値提案に変更し、その6年後には売上高5億ドル超で営業利益2.5億ドルを計上、ROS(売上高営業利益率)も40%を超える超優良企業になっていることが分かります。

 ここでマネタイズに成功し収益基盤が安定化しますが、マーベルは歩みを止めませんでした。安定収益に甘んじることなく、クリエイター魂を再度復活させるべく、映画製作会社を生むというフェーズ3に移行したのです。そのビジネスモデルで生まれた『アイアンマン』の成功を受けて、2008年のマーベルは過去最高売上高の約6.8億ドルと過去最高益の約3.8億ドルを実現しました。価値提案に応じてマネタイズの方法も最適化しており、収益構造が大きく変わっていることも見てとれます。

各フェーズを裏付けるマーベルの収益構造の変化
図表2(注)表中作品のアイアンマン以外はライセンス(L)製作、Marvel Enterprises annual report各年度分より筆者作成
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 フェーズ3が成果を見せ始めた2009年、世界を驚かせるニュースが飛び込んできました。ディズニーがマーベルを42億ドルで買収したのです。破綻した老舗コミック出版社は、いつの間にか世界的メジャースタジオの一員となり、いまやその大黒柱となって映画の歴史を変えるほどの影響力を手に入れました。

 マーベルの輝かしい変革は、苦境にこそビジネスモデルを作り込むことの大切さを教えてくれます。どの企業も、苦境を迎えたときは資金繰りが何より重要となり、とにかくマネタイズを最優先します。筆者ももちろんそれを否定するものではありません。ただし、マネタイズに主軸を置きつつも、それに応じた顧客への価値提案の変革も忘れてはなりません。同様に、顧客価値提案を変化させる場合には、マネタイズのあり方もそれに最適化させなければなりません。価値提案とマネタイズという2つの要素は、相互依存的な関係でビジネスモデルを構成しています。どちらかが圧倒的に秀でていても、「顧客を喜ばせ、利益も上げる」というビジネスの目的を実現することは不可能です。

 不況期は、単品としての製品や利益のそれぞれについて短期的に取り組みがちです。しかし、それではせっかくの努力も大きな成果には結びつきません。回り道のように思えても、視野を広げてビジネスモデルを設計し直すことで、長期的な勝ち筋を描きやすくなるのです。不況は、圧倒的な成果を生む好機でもあります。落ち込む利益数値を見てそれを受け入れたなら、大きく息を吐いてビジネスモデルを冷静に分析し、変革に向けて歩を進めていただきたいと思います。

 コミックスの世界でスーパーヒーローを生み出したマーベルは、ビジネスモデルの世界でもスーパーヒーローとして立ち回り、わたしたちに勇気を与えてくれているのです。