中国雲南省との国境に近いシャン州出身の語学学校講師の男性(35)は、スー・チー政権支持から批判に転じた一人。「外資規制の緩和や投資関連法の整備は確かに進んだが、恩恵は一部の人や企業だけ。多民族国家の連邦制がないがしろにされている」と少数民族対策に不満を語った。

 モン族の男性(38)は、モン州モーラミャインでタイ料理店を経営する。2年前に出稼ぎ先のタイから帰国して開業したが、地元の変貌にびっくり。町の橋は「アウン・サン将軍橋」と改められ、あちこちで“ビルマ化”が進められたと嘆いた。

アウン・サン将軍の
政治利用への反発

 なぜ、スー・チー氏への不満が高まっているのか。

 その背景には、大統領就任に執念を燃やす一方で、側近を次々と切り捨て、独断専行を続けるスー・チー政治への不信がある。

 1つ目は、実父アウン・サン将軍の政治利用だ。

 立候補受付日前日の7月19日は、73年前に独立時の英雄だったスー・チー氏の父アウン・サン将軍が政敵に暗殺されたちょうど「殉難者の日」。ヤンゴンなどの都市部では追悼式典が行われたが、もう一つ静かに始まったのが新紙幣500チャットの発行だった。

 全体に赤みがかった500チャット紙幣は、日本円で40円弱。空港行きのバスの運賃などと同額で庶民が最も目にする紙幣の一つだ。中央銀行は1月にも同将軍の肖像画が入った1000チャット紙幣を発行したばかり。今後も全紙幣に肖像画の印刷を広げていくとしている。

 これに対し、軍政の流れを引く国軍系野党の連邦団結発展党や少数民族政党は「支持率回復を当て込んだ体のいい選挙運動だ」と反発を強める。肖像画入り紙幣の発行は、戦後の一時期を除いては長らく見送られてきた経緯があった。

 アウン・サン将軍をめぐっては、ヤンゴンや首都ネピドーなどの都市部で銅像の設置が政府により進められている。始まったのはNLDが政権に就いてから。政権側は「国民の団結のため」とするが、少数民族居住区では住民との小競り合いも生じている。

 19年2月には、東部カヤー州でカレンニー族の若者が「銅像の設置は同化が目的だ」などと反発し警官隊ともみ合いに。十数人が負傷する事件が起こった。同様の反対運動はカチン州やモン州などでも展開されており、これらの地域では、設置はほとんど進んでいない。