3本立ての“医療型就労支援”プログラムの内容

 清澤氏の“医療型就労支援”では、働き続けるための土台作りを「就労準備性」と呼んで重点を置いている。「就労準備性」とは、具体的にはどういったものか?

 「企業が障がい者に最初に求めることは、『本人が自分の障がい特性を理解し、自身で対処ができるのか?』ということです。病気の知識をとても学ばれている企業担当者の方は増えてきています。しかし、特性イコール病名ではありません。たとえば、『統合失調症』でも、幻覚・妄想が出るか出ないかといったようにさまざまな類型があります。病名は診断する医師によって変わることもあるので、病名よりも、きちんと自分の症状の特性を知っているかが重要なのです。わたしが策定した“就労準備性”のプログラムは、企業が被雇用者(障がい者)に求める6つの事項を解決するためのものです。(1)自分の障がい特性を知っているか、(2)セルフモニタリングとセルフコントロールのやり方を知っているか、(3)自分の状況を説明できるか、(4)必要な支援を求めることができるか、(5)自分にとって就労がどんな意味を持っているかを意識できるか、(6)職場の中で溶け込んでいけるマナーを知っているか。

 心身の調子が悪い状態を障がい者自身できちんと説明できるか、SOSの信号を出せるか、たとえば、『5分間だけ休憩させてほしい。その間に○○のようなことをして早期にリカバーします』と言えるか、などです。最近の例では、人前でしゃべれるようになりたいが、話すことが極度に苦手だった引きこもりの男性が“就労準備性”を体得して就労し、対面での挨拶はもちろん、仕事の電話対応もできるようになっています」

 就労準備性を身につけるための“医療型就労支援”の清澤氏のプログラムは3本立てになっている。

 「ひとつめは、ワークブックを用いた講義+ワークである就労プログラム。ワークブックは、『就労にあたって必要なものは何ですか?』などと、企業200社あまりにヒヤリングして作ったものです。その後、社会の流れや、お会いした企業の話をもとに毎回ブラッシュアップしています。ワークブックに沿って、わたしたち医療チームが講義し、障がい者自身がブックに書き込み、それを自分自身で理解していく。書いた内容を発表してもらうことも肝要です。この“書く”という行為と“話す”という行為が重要なのです。書くことで自身の頭の中を整理・理解し、話すことで再認識と伝え方を学ぶ。3カ月1クールで全13回。週1回半日のみですが、かなりの負荷がかかります。『できないなら無理しないでいい』という方針ではなく、『どうすればできるようになると思う?』といった問いかけを医療チームでフォローしながら、ドロップアウトを防いでいきます。精神・発達障がいの方だけではなく、軽度の知的障がいの方やリワークを望む方も、皆が交じり合って行います。

 他のふたつのプログラムは、ロジカルシンキングと企業研究です。企業研究は、PPT(パワーポイント)を用いたプレゼンテーションを最終ゴールにしています。2チームに分かれて行い、実際に企業を取材し、調べ、まとめていきます。3カ月後に設定されたプレゼンの場には、対象となった企業にも評価をいただくようにしています。また、このプログラムは自分たちで好きに内容を作るのではなく、スタッフのオーダーどおりにスライドを作ってもらうようにしています。仕事は相手あってのものだからです。これまでの医療福祉系のプログラムでは本人の主体性に合わせたプログラムが多いのですが、その中では異色だと思っています。ただし、これは働き続けるためには必要なことです。プレゼンするためには論理的思考も必要で、ここでもかなりの負荷がかかります。『(就労希望者の)パソコンスキルは?』と企業に聞かれたときには、完成したPPTを見せれば理解してもらえますね」