障がい者雇用を下支えしていくのが支援機関の役割
厚生労働省のデータでは、民間企業で働く障がい者は年々増え続けているが、これからの日本社会で、多くのES(支援員)が必要なほど、就労希望の障がい者と、障がい者を働き手として受け入れる企業は増えていくのだろうか?
「障がい者と企業のニーズは、どちらも確実に増えていきます。精神障がいのある方が以前よりも働けるようになっているのは治療の進歩によるものです。治療の進歩により、入院期間が大幅に短縮され、退院後に2年間の就労移行支援事業所を利用しなくても再発防止策をきちんと身につけることで就労できたり、いままでは精神疾患により『働きたいけど働けない、働くことを断念してしまった』と思っていた精神障がいのある方も就労できるようになったと思っています。障害者雇用促進法によって、企業における就労のチャンスも増えました。何よりも、障がい者自身が“働ける可能性”を見い出せるようになったことが大きいですね。障がいのあるいろいろな人が働いているのを見て、『自分も働けるのでは?』と思えるようになり、就労の希望を持つ人が増えているのです。医学の進歩により、重症化、慢性化する人が減っている事実も雇用機会が増えている要因です」
働き手である障がい者と雇用側の企業、そして、双方をバックアップする就労支援機関の理想的関係はどういうものだろう?
「支援機関がなくても、企業独自で障がい者を雇用し、キャリアを構築していくことができるのが当たり前の社会の構築をわたしたちは目指しています。企業側の担当者が次々に代わっても、企業が障がい者にしっかり向き合い、職場に定着させられるようにならなくてはいけません。そのためには、企業側に雇用定着のためのベースとなるスキームが必要となります。それをESが企業と一緒に構築のお手伝いをしていく。職場定着には企業(仕事)と支援機関(生活)の両輪が必要です。そのために、まずは、支援の質を担保できる就労支援機関(支援員)が必要です。ES協会で資格を取った方を例に挙げれば、資格を持つ前は障がい者本位、障がい者の就労支援を考えていることが多いです。『本人の希望をどうかなえようか』といったふうに……。しかし、資格を取った後は、企業側の視点を持てるようになります。企業のニーズを知らずに就労支援していたのが、そうではなくなる。就労支援というものは、障がい者当人への支援に重きを置かれがちですが、実は企業側の視点もとても大切で、ESには双方のバランスの良い視点が必要なのです。また、これまで、『医療機関が就労支援までを行うのはおかしいのでは?』といった意見もありましたが、『就労こそ最大の治療』ということがエビデンスとしてあるように、いまでは国も“医療型就労支援”を推進している状況になりました。障がい者を雇用する企業には、雇用したら終わりではなく、キャリア形成まで考えた仕事を通じ、障がい者それぞれの可能性を引き出していってほしいですね。障がい者のポテンシャルはすごいものがあります。それを引き出せるのはわたしたち支援機関ではなく、間違いなく、企業です。それを下支えしていくのが本当の支援機関の役割だと思います」
※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「さまざまな障がい者の雇用で、それぞれの企業が得られる強み」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。