前稿(「障がい者雇用のいま(1) 数字を伸ばす『就労移行支援』とは何か?」)では、就労系の障害福祉サービスである“就労移行支援事業”についてまとめた。全国に3400以上ある事業所が就労を希望する障がい者と向き合っているかたちだが、内在する問題点や課題も多い。今回は、問題解決のひとつとなる“医療型就労支援モデル”について、その第一人者である清澤康伸氏(一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会代表 医療法人社団欣助会 吉祥寺病院勤務)に話を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)
*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「さまざまな障がい者の雇用で、それぞれの企業が得られる強み」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。
企業の持つ、障がい者雇用上のリスクは「症状悪化」
就労系障害福祉サービスの“就労移行支援事業”は、働く意思を持つ65歳未満の障がい者(原則18歳以上)に対し、就労に必要な知識の取得や職業能力の訓練を行うもので、地域の福祉法人・NPO法人・民間企業などが公共職業安定所(ハローワーク)や医療機関と連携しながら行っている。そうしたなか、清澤氏が行う“医療型就労支援”の端的なメリットは何か?
「『障がい者の雇用上のリスクは何ですか?』と企業に問いかけると、『(精神や発達障がい者の)症状悪化』という答えが多く、それは医療の領域になります。実際に、公的な調査でも企業が考える就業後のリスクとして、実に70%もの企業が症状悪化を挙げています。ある企業の例では、雇用中の障がい者が体調を崩してしまい、人事担当者が支援機関に『どうしたらいいですか?』と尋ねたところ、『次の診察が来週なので、それまで休ませてください』という答えが返ってきたそうです。長く休むことは企業にとっても本人にとっても不本意かもしれません。しかし、医療を行う支援機関であれば、すぐに診察できる体制なので早期対応しやすい。以前、厚生労働省の担当者とも話しましたが、医療機関が就労支援を行うことで“企業の知りたい医療情報”を責任持って適切に提供できるという強みがあります。大切なのは就労することではなく、障がい者が働き続け、社会の中で当たり前に生活していくことです。しかし、ずっと症状が安定している方は非常に少なく、多くの方は症状が不安定になることがあります。そこに責任を持って対応ができるのが医療型就労支援のメリットです。医療行為とともに障がい者と企業の双方をシームレスにバックアップすることで、働き続けることで生じる問題を早期に解決しやすくなります」
“医療型就労支援”の最大利点は、「障がい者の一番悪い症状から回復までの一連の流れを把握している医療機関が、障がい者と企業の双方に対してリスクヘッジできる就労支援と職場定着を行うこと」と、清澤氏は断言する。
「精神や発達障がいがある方の多くが、ある程度の症状回復をしてから就労移行支援サービスを利用しますが、わたしたち“医療型就労支援”はその方の一番悪い状態から関わっています。なので、回復までの経過や、どういうときに調子を崩しやすいのかということをきちんと把握したうえで、わたしたちは、企業に、症状悪化のサインや周囲から見て取れるサイン、その際の対処の仕方についてをダイレクトに伝えられます」
清澤 康伸(きよさわ やすのぶ)
一般社団法人精神・発達障害者就労支援専門職育成協会代表理事(ES協会)。医療法人社団欣助会吉祥寺病院勤務。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)時代より職場開拓、支援プログラム、就労後の定着支援、定着後のキャリア支援、企業支援などをワンストップで行う医療型就労支援モデルの構築を行う。新しい就労支援の形である清澤メソッドを考案。NCNPを経て現職。これまで10年間で300人以上の精神、発達障がい者の一般就労を実現する。就労プログラム履修者の就労率92.7%、1年後の職場定着率93.0%は国内トップレベル。就労プログラム開始から一般就労までの平均5カ月。自身の就労支援の経験から支援者の人材育成が急務と考えES協会を立ち上げ、支援者の育成にも力を注ぐ。そのほか企業、公的機関、家族向けなどのセミナーや講演なども多数行う。