支援機関が企業と障がい者に正しい支援を行えるか

 清澤氏は、障がい者の職場定着率が低い理由のひとつとして、就労移行支援機関側に問題があると考えている。

 「現在の就労移行支援事業は、支援者側の視点ひとつで『就労支援者やジョブコーチ』と名乗れてしまうものです。支援者になるためのきちんとしたカリキュラムやガイドラインも整備されていません。だから、就労支援の質を企業に担保することができないのです。相手企業をあまり知ることなく就労支援している傾向も否めません。これからは、支援機関が企業と障がい者に対して、正しい支援(就労&定着支援)を行えるかどうかがカギになるでしょう。わたし自身が企業の最終面接を受けることもあるくらい、いまや、企業は真剣に支援機関を選び始めています。『(障がい者に対して)あなたはどういうケアができますか? 企業に対してはどのような対応をしてくれますか?』と」

 全国にある就労移行支援機関は玉石混交といっても過言ではない。実際、ツイッターなどのSNSで、障がい者自身が、通所している事業所の対応やカリキュラムに不満を持ち、不安感や疑問を呈することも散見する。

 「就労する障がい者のために、支援機関と企業の役割が明確でなければいけません。企業の立場からすれば、『支援機関があるから大丈夫!』といった考えは捨てるべきでしょう。むしろ、支援機関がついているうちにそのノウハウを学んで自社で活用できるようにするくらいの気持ちで。また、支援機関の多くは仕事内容にまで余計な口出しをすることがあります。これも避けるべきこと。ある会社において、1年以上勤めた障がい者から『電話対応をしたい』という申し出があったので、会社側は本人の成長を促すためにも了解しようとしたら、支援機関から電話があり、『なぜ、そんなことをやらせるのか?』と。キャリア形成より就労継続優先の考えから、働き手である障がい者の可能性をつぶしてしまう支援機関もあるわけです。結果的に、本人のモチベーションが下がり、仕事を辞めてしまうこともあります」

 清澤氏の行う“医療型就労支援”では、職場開拓から定着支援、その後のキャリア支援について、障がい者だけでなく企業側のノウハウ構築の支援までを一貫してワンストップで医療機関にて行っている。現在、医療法人社団欣助会 吉祥寺病院で“医療ワンストップ型就労支援”を行う清澤氏は、一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会(ES協会)の代表も務めることで、就労支援員の人材育成にも力を入れている。

 「ジョブコーチは誰でも名乗れてしまいますが、ジョブコーチの中にも『職場適応援助者』という資格があります。主に(障がい者の)就労後1~3カ月ほどの職場適応期の支援を担当する役割になります。わたしが資格認定しているES(Employment Specialist/就労支援専門職員)は、就労前から就労後までシームレスに、トータル的に支援を行うことを目的にした専門的知識を持ち、活用ができる人材です。ESは本人支援だけでなく、企業支援も同時に行える障がい者就労支援の専門家です。就労支援をきちんと行うためにはノウハウが必要ですが、なかなかそれを学ぶ機会はありません。ノウハウを学ばずに就労支援を行うことで障がい者と企業の双方に迷惑をかけることになる。それを防ぐためにも、わたしがこれまで行ってきた就労支援スタイルである“清澤メソッド”をきちんと学べるような仕組みが必要であり、今後の日本の障がい者雇用を推進していくためには人材育成が急務だと強く感じ、育成協会を立ち上げました。カリキュラムはその日から活用できる“ノウハウ研修”になっています。研修を受けていただき、試験を行い、パスした方が協会認定のESとなり、障がい者の就労支援を行っていきます。資格取得希望者のキャリアはさまざまで、すでに医療機関で働いている方や就労支援機関で就労支援を行っている方が専門的に学ぶことを望んだり、就労支援を始めてみたいけどどうしていいか分からないという理由で受講する方もいます。最近、受講が増えてきているのが企業の障がい者雇用担当の方です。そして、ESの認定を受けた受講生がそれぞれの分野で活躍して結果を出しています」