一瞬で全身の神経が麻痺した感覚に、さらにその後は……

「3分ほどたったとき、突然、きた。ドーンという鈍い音が頭の中に鳴り響いて、すぐに全身から力が抜け、立っていられなくなった。立ちくらみというのとはちょっと違う。麻痺。とにかく一瞬のうちに全身の神経が麻痺したような不思議な感覚。座っているけどもう駄目。動けない。まったく動けない」

「どーっと汗が噴き出してくる。尋常じゃない量の汗が、頭から、脇の下から、胸から、背中から、あらゆる汗腺から吹き出す。暑い。いや、熱い。燃えるようだ。そう思ったら急に寒気が。皮膚の感覚が異様に研ぎ澄まされるというか。風がないときはサウナの中にいるように暑いが、ちょっとでも風が吹くとものすごく涼しく、いや、寒いくらいに感じる」

「喉が猛烈に渇く。オレのすぐ横にサトシがくれたペットボトルの水があったけど、手を出せない。いや、手を動かすのが怖い。億劫というのではない。やっぱり風が吹くと涼しくて、これが次第に心地よくなってきて、たまに吹く風に救われた気分になる」

「また、風だ。『今だ!』と勇気を振り絞ってペットボトルに手を伸ばす。届いた。でも持ち上げるだけの力が入らない。手はぶるぶる震えている。それでもなんとか両手でペットボトルを持ち上げると、水をちょっとだけ口に含んだ。水が喉を通り、胃に落ちる」

「その瞬間、猛烈な吐き気を催し、間髪入れずに地面に吐いてしまった。中華料理屋で食べたマーボー豆腐と、ビールが混じった味。この味にさらに吐き気を刺激され、また吐く。酒に酔ったときの吐き気とはちょっと違う。酒の場合、胃の中のものが逆流してくる感じがわかるが、この日はもういきなりの発射。口から発射だ。止められない。コントロール不能。吐いているときは、汗がさらに吹き出す」

「顔を地面に近づけたままの姿勢で十数分、多分だが。やっと吐き気はおさまったが、今度は顔を上げ、座り直す勇気が出ない。動くのが怖い。そういう感じだった。だから、嘔吐したままの姿勢でさらに十数分。次第に意識が遠のいていく感覚に襲われる。『大丈夫、オレは今楽しい。気分はいい』。あのとき、オレは心のなかで必死にそう言い聞かせていた。『なんて楽しいんだろう、なんて気分がいいんだろう』そう言い聞かせないと、意識が飛んでしまいそうだったから」

「吐き気の後は、ウンコだ。ものすごく肛門が緩んで、力が入らない感覚に襲われる。マジで漏れそうだった。でも、動けない。ウンコをしたくなると、別のことを考えて便意を忘れようと務めた。そしてもうひとつ。あの日、横に、会ってからまだ日の浅い編集者がいた。一応オンナ。その人の前でいきなりの脱糞はまずい。そんな意識が強烈にあった」

「あの日、どのくらいあの場所にいたのか、まったくわからなかった。時間の感覚が完全におかしくなっていた。1時間ぐらいしてようやく、口を開く勇気と立ち上がる気力が出てきた。『タクシーで、後輩の○○君ちまで送ってくれ』と言った。あいつの前ならゲロもウンコも最悪平気だ。そんな意識があった」

「30分後後輩の家に着いた。ソファに横になった。吐き気や動悸など気持ち悪さは去ったが、しかし、今度は眠れない。あれだけ脱力していたはずが今度は全身が緊張、肩が凝りまくりだ。結局、あの日眠れたのは朝8時過ぎ。昼12時過ぎに目が覚めたが、気持ち悪さは嘘のように消えていた」