これまで私たちが会社の日常において大切にしてきたある種の「ムダ」は、「単なるムダ」ではなかったと思います。「会社の時間」には、仕事に取り組む時間以外に、「余白」のような時間がけっこうある。その余白によって、仕事の時間が充実する、という関係もあったはずです。なかでも、もっとも大きいのは、職場でのコミュニケーションでしょう。第1回でも書いたように、コミュニケーションについては、同じ場にいたほうがいいにきまっています。
リモートへのシフトに雪崩を打つ一方で、この部分に関する議論が抜け落ちていると思うのです。
前回の連載では、ビジネスコーチングではビーイング(being)、ドゥーイング(doing)があり、1on1ではビーイングを意識してほしい、と書きました。私たちは誰かと話をすることによって、ビーイングを感じます。ともに共通のゴールに向かう仲間の存在を直に感じることの意味は小さくありません。他者とのリレーションはときに面倒でもありますが、むしろ対話によって元気になることもたくさんあります。
これを広義の心理的安全性とよびたいと思います。
ご存知のとおり、「心理的安全性」はエドモンドソンが提唱し、グーグルが成功するチームの要件として発表したキーワードではあるのですが、日本では「心理的安全性」という言葉だけが広がってきたという側面があります。原典を調べず、安易に言葉を使うなと批判する人もいますが、私は、むしろ「心理的安全性」という言葉が広がった背景には、日本で働く人が無意識に感じている「ストレスなく不安を感じることなく働きたい」という気持ちがあったのではないかと思います。ちょっと乱暴な定義ですが、誰かとつながっているとか、組織に必要とされているとか、自分を知ってくれている仲間がいるというような感覚のことです。
リモートでの仕事がメインとなる時代において、この広義の心理的安全性の重要性がさらに重要になっていくのではないかと思うのです。人は機械じゃないのだから。
ヒアリングやアンケートを実施しても
心の安定性は把握できない
コミュニケーションの質量と心理的安全性との相関を正確に計ることはできません。多くの会社で、ウィズコロナ時代における働き方を模索するなかで、社員にヒアリングをしたりアンケートをとっていると思いますが、心の奥底の安定性や安全性は、それでは把握できません。
ここに1on1の新しい役割があります。ウィズコロナ時代の1on1は、ステイホームの状態でのリモート中心の働き方で欠きがちになるコミュニケーションを満たす機能として重要性を増します。ただ、これまで職場で顔を突き合わせての対話、他愛のないおしゃべりが、どれほど気晴らしや励ましになったかを思い返してみれば、それがごっそりと抜け落ちた状態がどのようなものか、想像できるのではないでしょうか。