あらゆる産業においてロボット・AI化が加速した今、これからの国力を左右するのが教育である。それは、早くからITを教育に導入し、Skypeなど数多くのIT系スタートアップを生み出したエストニアを見ても明らかだ。さらに、新型コロナウイルス感染症によって人が集まることそのものがリスク要因になったいま、「教室」のイノベーションは待ったなしと言えるだろう。新型コロナ後の教育のあるべき姿とは何か。100校以上の先端校の調査、研究をまとめ、今年7月に『新・エリート教育――混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(日本経済新聞出版)を出版した竹村詠美・FutureEdu代表理事に聞いた。(聞き手・小島健志)

ある一本のドキュメンタリー映画から始まった5年間の学校研究

――このたび、約5年間に及ぶ実地調査に基づき、これからの教育のあり方について記載した新著『新・エリート教育』を出版されました。その経緯について教えてください。

竹村詠美(たけむら・えみ)
一般社団法人 FutureEdu 代表理事
一般社団法人 Learn by Creation 代表理事
Peatix.com 共同創設者・アドバイザー
慶應義塾大学経済学部卒業、ペンシルバニア大学MBA、同国際ビジネス修士。マッキンゼー米国本社やアマゾン、ディズニーの日本法人など外資系7社を経て、2011年Peatix.com を共同創業。マーケティング責任者やアジア代表を歴任。グローバルなビジネス経験を活かした教育活動に取り組み、全国で教育ドキュメンタリー上映・対話会や教育イベント「Learn by Creation」を主催し、教員研修も行うほか、総務省情報通信審議会委員なども務める。2児の母。

 当時、子どもを私立小学校に通わせていたのですが、どうも楽しくなさそうだと気づきました。ただ、伝統校であり、設備も充実していて、端から見ても不自由のない環境で、いじめがあったようには見えませんでした。

 私自身はおんぼろの公立小学校で過ごしましたが、そこでの学校生活が充実し、最高に楽しかったので、何がいけないのだろうかと疑問を持ったのです。

 外資系企業での経営コンサルティングの仕事や自らIT系スタートアップを起業した経験から、「日本の教育現場の何が問題なのか。この疑問を解明しなくては」と思い立ち、世界で先端的な取り組みを行う学校の視察を始めました。以来、30校を超える欧米の学校を訪問し、世界の100校以上の実践を学んできました

 その旅の中、米国のあるチャータースクール(個人や団体が特別な認可を受けて運営する公立学校)で、衝撃的な光景を目にしました。生徒や保護者、教師らが同じドキュメンタリー映画を見て、「どうやったら私たちの学校をよりよくできるだろうか」と真剣に話し合っていたのです

 日本の伝統校において、保護者が「学校の運営をお手伝いする」という姿勢で先生や運営に口出しすることはあまりないのではないでしょうか。その点、本気で対等に議論していた姿が目に焼き付いているのです。

――何という映画を見ていたのでしょうか。

Most Likely to Succeed”という米国のドキュメンタリー映画です。「人工知能(AI)やロボットが生活に浸透していく21世紀の子どもたちにとっての必要な教育とは何か」をテーマに、2015年に公開されています。以来、7000以上の学校や図書館、公民館、教育カンファレンスで上映され、その一つが私の見たものでした。

 私自身、2016年から日本全国で上映会を行おうと、上映会活動を始めました。各地の自主的な開催を支援し、いまでは45都道府県で延べ500回を超える開催まで広がっています。

 そこで気付いたのが、日本全国どの教育現場でも非常に似た課題を抱えているということでした。戦後から積み上げられた堅牢な教育システムは、よい面もたくさんあります。ですが、そのシステムには、子どもたちがこれからのVUCAの時代(VUCAは激動、不確実、複雑、不透明の頭文字)を生きていくうえで、弊害も数多くあります。

 課題に立ち向かおうとしている現場の皆さんは、各地で孤軍奮闘しています。そうした人々のネットワークをつなげようとも思い、昨夏にLearn by Creationというイベントを開きました。およそ2500人もの新しい教育を考える方々が集まりました。

 こうした方々とともに新しい教育を考えていくうえで、やはり私が5年間、調べてきた情報をぎゅっと詰め込んだ書籍があるといいと考え、今回の出版に至ったのです。