今こそ、「村中の大人の力」を借りるとき

――冒頭で小学校生活が楽しかったとおっしゃっていました。振り返ると何が違いましたか。

 そうですね、校舎もおんぼろで、特段、授業が面白かったという記憶はありません。友達と一緒にいたずらをしたり、遊びを考えたりしていました。時間にはゆとりがありましたよね。そうですね、余裕があったということかもしれません。

 米国の場合、特にひどいのですが、安全面の観点から子どもが外で自由に遊び回ることすらままなりません。その点、学校という場は、多様な子が安心、安全な環境で何かを一緒にする時間を過ごせます。

 お稽古や塾となると、はっきりとした目的を持った子どもたちが集まっています。ですが、学校では無目的が混在します。何かの分野において、目的のある子も目的のない子も一緒になって体験する場になっているのです。多様な子たちと協働するため、先ほど申し上げた、非認知能力を伸ばすのに適しています。

 日本の教育現場では、学習指導要領の縛りもあって、なかなかこうした非認知能力を伸ばす取り組みができないのも重々承知しています。そこで本書では非認知能力を高める施策を行っている数多くの学校事例を紹介しています。

 だからといって、従来の基礎学習教育を否定しているわけではありません。先進的な学校では、基礎学習もプロジェクト型学習も、順序を決めることなく同時並行に行っていました

 ただし、この本に書いてあることが答えだと伝えたいわけではないですし、答えを書いたつもりもありません。これをきっかけに、生徒も親も先生も大いに話し合っていただきたいのです。

――以前、公立小学校の先生たちから伺いましたが、総合型学習やプロジェクト型、探求型学習は標準化されておらず、カリキュラムをつくるのも大変な仕事のようです。

 いま教育現場において、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を取り入れようという動きがあり、社会課題を解決する学習アプローチが提唱されています。

 しかしながら、社会課題を見つけ解決につなげるには、社会経験を積んだ大人や起業家ですら簡単ではありません。従来の教育観を引きずったまま新しい学習法を現場が取り入れるのは難しいでしょう。

 ではどうしたらよいのか。「子どもをひとり育てるには、愛を持った村中の大人の協力が欠かせない」というアフリカのことわざがヒントになると思います

 教育システムは、学校の生徒や親、教師だけでつくるのではなく、地域の団体や企業、ボランティア有志、NPO等、外部の力が欠かせません。視察した学校の多くがこの視点を取り入れていました。

 お金のことを知りたければ、金融機関に勤める大人に協力を依頼すればいいですし、NPOにもこうした活動を支援する団体があります。つまり、「村中」の人々の力で子どもを育てていく。そうしたマインドがいま、必要なのだと思います。

 大人にとっても子どもと活動することで新しい発見があるはずです。実際、米オラクルがいい例で、社員に時間を与えて、自社関連財団の教育ボランティア活動を行っています。人材育成に役に立つと企業側が考えているからです。