AI時代に必要な教育は、一人ひとりの「学びの特性」を知ることから

――なぜ『新・エリート教育」というタイトルにしたのでしょうか。

コロナ後を生き抜く子どもはどう育てればいいか?100校の最先端教育を追った5年間で見つけたこれからの教育竹村詠美さんの著書『新・エリート教育ーー混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(日本経済新聞出版/本体1800円+税)

 エリートというと、一部の優秀な人という印象を与えてしまうかもしれません。ですが、ここではテストで高い偏差値をとる人を指してはいません。これからの時代に向かってもっともよい教育を受けている人、もっともよい学びを受けている人が新しいエリートであると定義しました

 いま、経済的、社会的に見て大きな変化が訪れています。一つが「Society5.0」と呼ばれるものです。狩猟社会から農耕社会、工業社会、情報社会をへて、5つ目の社会、つまりAIやロボット、IoTによって、社会のインフラがアルゴリズムによって動くまったく新しい社会が訪れています。

 人間の認知的な処理能力をはるかに上回る計算機能を手にしたいま、子どもたちにとって必要なのは、従来型の記憶偏重の教育ではありません。

 記憶力のテストでは測れないような、コミュニケーションや批判的思考能力、コラボレーション、創造力といった「非認知能力」を伸ばすことが重要なのです

 さらにいえば、子どもたち1人ひとりが自分を知り、多様な他者の視点に共感する力を身につけて、自分なりの方法で社会に貢献する。こうした普遍的な人間力を育てるのが、新・エリート教育の肝であると考えています。

 そこで着目したのが、本書に詳しく記載した「ホール・チャイルド・アプローチ」です。子ども1人ひとりの興味・関心にあわせて、心、身体、頭を統合的にバランスよく育むという学びの考え方です。

――机上の勉強だけでなく、心と身体を鍛えるという教えは、日本にも古くからあるように思いますが、何が違うのでしょうか。

 詳細は本書に譲りますが、日本の子どもたちは自分自身の学びの特性を知らないまま、とにかく詰め込まれているような印象を受けます。

 ハーバード大学教育学大学院のハワード・ガードナー教授が提唱する「マルチプル・インテリジェンス理論」では、人は言語や音感などの8つの能力を働かせているといいます。得意分野を見極めて、それぞれの個性にあった学習アプローチをとることで、才能を伸ばせるのです

 空間認識能力の高い子であれば、絵を活かした学習アプローチがありますし、身体・運動能力の高い子には、ダンスを通じて覚えるようなアプローチがあっていいはずです。

 そのほうが学習効果も高いですし、仮に音感が苦手なことがあっても、「あなたは、これを習得するのに時間がかかるんだよ」と伝えることで、変な苦手意識も持たずに済みます。

 子ども自身が、自分の学びの特性を理解していれば、「これは得意かもしれない」と思え、長続きしそうなことを主体的に選んでいけます。そこで試行錯誤を繰り返し成長する。「やればできる」という自己肯定感や自己効力感を得て、さらに学びを深めていけるでしょう。

 ですが、現在の伝統的な教育法では、受験のためのテスト攻略法を与えられ、ひたすら問題を解いて覚えていくことが主流です。それぞれの学びの特性を知る方法もそのチャンスもない、というのが大きな問題だと思います。