エストニアは常識にとらわれずに大胆な発想で分散型の社会を実現していった。コロナ後の世界では、「密」を避ける意味でも分散型の社会の実現が不可欠であり、日本でも実際多くの動きが出はじめている。そんな中、東京大学発のスタートアップWOTA(ウォータ)が、水道管につながずとも使える、水循環型ポータブル手洗い機を開発した。持ち前の水循環技術を活かして、水道インフラに縛られない、新しい生活様式を提案する、前田瑶介・代表取締役CEOにインタビューした。(聞き手:小島健志)
シャワーから手洗い機へ
――災害とコロナ禍が後押しした素早い技術転用
――水道のない場所でも、電気コンセントにつなぐだけで、繰り返し手洗いのできる可搬式の手洗いステーション「WOSH(ウォッシュ)」を開発されました。この経緯について教えてください。
歴史を振り返ると、水は公衆衛生と密接に関わっています。水の課題に取り組むことで、人は衛生環境を改善し、より健康的な生活につなげてきました。
たとえば、パリが「花の都」と呼ばれるようになったのも、19世紀にコレラやチフスなどの感染症の拡大を防ごうと、上下水道の整備を行い、清潔になったためです。
日本においても、水の課題は数多く残っています。その一つが自然災害による避難所での水供給の問題です。近年の歴史的な豪雨や川の氾濫は記憶に新しいと思います。上下水道インフラが災害によって断絶した場合、避難所では十分な水の供給が受けられず、不衛生な環境で多くの人が寝泊まりを強いられてしまいます。
我々は、「人と水の、あらゆる制約をなくす。」というビジョンを掲げ、一度使った水の98%を再利用できる水循環技術を活かし、災害時でも屋外でシャワーが浴びられる製品「WOTA BOX」を提供しています。
「WOTA BOX」では、排水をろ過して繰り返し循環させることで、100リットルの水で約100回のシャワー利用が可能なシステムを実現しました。これまで、災害現場や建設現場などに約100台を納入してきました。
2019年9月、台風15号が襲った時のことです。日本赤十字の方から「シャワーだけではなく、トイレの後の手洗い機がほしい」という要望がありました。感染症の予防につながり、避難所で暮らす人々の健康を守れるということでした。
そこで、シャワーの技術を転用し、初めて仮設トイレの前に手洗い機の試作機を製作したのです。
新型コロナウイルス感染症の影響も後押ししました。ある飲食チェーンの方からは「お店に入ってから奥の手洗いに行くのではなく、入店前に手を洗えないだろうか」と相談がありました。
来店者に安心、安全を提供したいと願う小売店や商業施設の運営者の方々に、我々の技術を提供できるのではないかと考え、製品化の意思決定をしました。
――6月には鎌倉市で実証実験も行っています。利用者の反応はいかがでしたか。
「WOSH」を置く場所は、観光施設やお店、駅の改札など何らかの入り口となる箇所を選びました。
すると、こちらが呼び掛けなくても、自然とみなが手洗いを始める、そんな流れができました。手洗いステーション「WOSH」を受け入れてくれるのだと確かめることができました。
もともとアルコール消毒を体質的に受け付けない人もいますし、日本人の手洗いの習慣や規範意識、清潔感にマッチしたのだと思います。