部下から「会社に炊飯器を持ってきていいですか?」と言われたら、喜ぶべき理由とは?
ITベンチャーの代表を10年以上務め、現在は老舗金融企業のクレディセゾンのCTOを務める小野和俊氏が書いた書籍、『その仕事、全部やめてみよう』が話題になっている。「プログラマー×起業家×CTO」という異色の経歴を持つ著者が考える「効率的な仕事の進め方・考え方」が記されている。本連載は、具体的なエピソードを交えながら、仕事の生産性を高めるための「仕事の進め方・考え方」を解説するものだ。(初出:2020年8月26日)

部下から「会社に炊飯器を持ってきていいですか?」と言われたら、喜ぶべき理由【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

 約1年前、クレディセゾンで新しくチームを作り始めたときのことだ。ベンチャー企業出身のエンジニアが「会社に炊飯器を持ってきてもいいですか?」と聞いてきた。

 大企業の中で育った人たちの「えっ」という声にならない声が一斉に聞こえてくる。ざわめきを感じた私が彼に聞いた。

「うん、それで……炊飯器を持ってきたいのはどうして?」

 すると彼は答える。

「炊き立ての米が食べたいんです」

 エンジニアが会社に持ってきたいとリクエストするもののバリエーションは実に豊富だ。

 DJ機材一式、二段ベッド、据え置き型ゲーム機、ゴルフパター練習セット、空気清浄機、バランスボール、特殊な椅子全般、電動昇降式デスク、曲面ディスプレイ、絵画、炊飯器、ワインセラー、ワイングラス百脚、ドローン、セグウェイなどなど。

 炊飯器については、アプレッソ時代にすでに導入したことがあった。だが、次第に炊いた米が余るようになり、ラップに包んで冷凍庫に入れ、電子レンジでチンして食べるようになってしまった。

 そのときのことも伝えて、結果的に炊飯器の導入は見送った。

 だが、非常にいいなと思ったことがある。それは、「これは言ってはいけないことだ」「こんなことは認められないだろうな」といった常識にとらわれずに、感じたことを伝えてくれている点だ。

 それまでの仕事の経歴や、育ってきた環境が違えば、当然ある人にとっての常識は別の人にとっての非常識だ。その差異は文化的衝突の原因にもなる。しかし同時に、組織の柔軟性を高めることにもつながる。

 この炊飯器の話も、歴史ある日本の大企業では非常識なことだったとしても、「そんなのありえない」なんて言ってはいけないのだ。

 仮にそれを口に出してしまったなら、大企業の常識を是とする人しか受け入れられない、多様性を受け止めることができない、弱いチームしか作れなくなってしまうのだ。