田舎暮らしに刺激をもたらす虫との戦い

 話が前後してしまったが、筆者はホームセンターでバズーカタイプのスプレーと、「一度入ったら出られないハチ地獄処方」と書かれた設置型のアイテムを入手した。ベランダをうろついているのはおそらくアシナガバチで、子どもの頃一度刺されたことがあるのでなるべく直接対峙はしたくなく、ベランダに設置型(以下“地獄処方”)を吊るして事の成り行きを見守った。
 
 毎日地獄処方をのぞきに行っては「今日はハチ入っているかな」と楽しみにしていたのだが、3日間を過ぎても一向にハチが引っかかる様子がない。「地獄処方がんばれ!」などと声をかけていたが、地獄処方の横を素通りしてベランダに置いてあるエアコンの室外機にハチが盛んに出入りしているのが目撃され、もしやそこに巣ができているのではないか、とようやく思い至った。
 
 巣がある前提で観察してみると、数匹のハチを同時に目撃することもあり、いよいよ室外機の蓋を開けてみたら、小さめの巣が鎮座していた。一個体が偶然うちのベランダを気に入っているわけではなかったのである。
 
 不動産店にその旨相談したが、諸々あって、自力で駆除することを決断。そこでノウハウの情報収集や準備を進めていった。この頃には地獄処方はしっかり効果を発揮していて、ハチが5匹ほど地獄のビンの中で溺死していた。
 
 エアコン室外機にできたハチの巣は、直接巣にスプレーすると室外機故障のリスクが結構あるので絶対NGらしい。ハチが巣に帰ってくる日没から数時間後、室外機全体をビニールで覆ってバルサンなどのくん煙タイプの殺虫剤で全滅させよ、とのことである。そこで軍手、長靴、厚手のコートなどであつらえた自前の防護服を着込み、ノウハウに書かれていた通りに室外機をビニールで覆っていく。
 
いざ、くん煙剤を発煙させてみるとハチとハチの子がワラワラ出てきて、煙るビニールの中で不気味な羽音を何重にも響かせた。かなり緊張したが目張りがうまくいっていたのか1匹も外に漏れ出てくることはなく、やがて全滅したようだった。
 
 翌朝室外機を開いて巣と死骸(成虫が20匹ほどいた)を処理し、厳重に縛ってゴミ処理場に持ち込んで落着となったが、筆者はかなり高揚していた。あのハチの大群を、見事無事にほふり尽くしたのである。人間としてひとつレベルが上がったようであり、したたかに生き抜く強さが自分に新たに備わった心地であった。
 
 先に「ハチとの対峙に『田舎暮らしにおける虫との付き合い』が集約されているように感じた」と書いたのが、まさしくこれである。ハチの時は特に闘争心がデフォルメされるが、ほかの害虫に相対する時も「生活圏に侵入して脅かしてくる虫を滅する」という根幹にある思いは変わらない。田舎で平穏無事に暮らしていくには虫たちを退けていく決意が必要だが、この決意が日々生活する上で大きな心の張りとなる。都会から見ればなんにもなさそうな田舎でも、虫との闘争に限るだけでもこれがある分結構刺激的であり、逆の言い方をすれば、虫がいるからこそ張りが生まれる――ということがわかってきた。