兄は「国民的英雄」なのになぜ?ネタニヤフがガザ攻撃をやめない“あまりに個人的な理由”ベンヤミン・ネタニヤフ首相 Photo:SANKEI

イスラエル・ガザ戦争の長期化によって国民の不満が高まり、ネタニヤフ首相の支持率は大きく低下している。にもかかわらず政権は崩れず、首相退陣どころか戦争が終わる気配もない。ネタニヤフの延命術と、それに振り回される国民の苦悩に迫る。※本稿は、東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉 悠、日本大学危機管理学部教授の小谷 賢『戦闘国家 ロシア、イスラエルはなぜ戦い続けるのか』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。

「英雄の兄」との比較で
露わになったネタニヤフの目論見

小谷賢(以下、小谷):周辺国との関係が依然不透明で危ういイスラエルですが、じつは国内情勢も相当不安定です。

 とくに2023年のハマス奇襲攻撃以降、ネタニヤフ首相はその責任を厳しく問われるようになり、支持率が急落していました。長引く戦争でイスラエル側は前線部隊の人員が不足しつつありますが、国民も長引く戦争に嫌気がさし、兵役拒否も相次いでいます。

 ただ、2025年6月のイランへの攻撃によって宿敵イランを弱体化させたことで、支持率が回復しているとも言われています。いずれにしても、戦況が政権への支持に直結していることは間違いないでしょう。

小泉悠(以下、小泉):ネタニヤフはイスラエルで史上最長の首相在任記録を誇っていますよね。もともと、国民からの支持が厚いというわけではないのですか。

小谷:そもそも彼が首相になったのには、1つの背景があります。ネタニヤフは元軍人なのですが、実兄のヨナタン・ネタニヤフもまた軍人で、イスラエル国防軍の特殊部隊サイェレット・マトカルの指揮官でした。