こうした中で、医療・福祉などテレワークの実施が難しい業種・職種従事者を含む通勤者が公共交通機関の利用を避け、自転車や自家用車の利用に移行する動きが見られる(拙稿『コロナ禍で高まった車の「やむなく購入」、数字以上に厳しい自動車市場』参照)。

 勤務者目線では、自転車・自家用車通勤の移行に伴う費用負担に逡巡する向きもあることだろう。

 やや古い調査だが、13年9月に労働政策研究・研修機構が厚生労働省の要請に基づいて実施した調査では、正社員向けに通勤手当のある企業の割合は84.6%に及んだ。また、パートタイマー向けに通勤手当のある企業の割合は、42.5%であった。公共交通機関での通勤を選択した勤務者に対し、一定額までの定期券費用や現物を支給している割合となろう。

 勤務者はこうした支給を受けていた中で今般のコロナ禍に遭った。しかし、感染リスクを下げるために通勤手段を自家用車に切り換え、それを勤務先に申請・請求しても、即座に会社が定期券を回収して、代わりに燃料代を支給することはまれだろう。たとえ自家用車通勤が認められている場合であってもだ。また、鉄道やバス会社などに定期券の払い戻しを求めても、払い戻しは受けられるものの、厳密に日割り計算して払い戻すケースは少ないようだ。

ガソリン代は半年で約6万円
企業も支給を検討せざるを得ない

 定期券などから燃料代支給への切り換えが認められない背景には、通勤手当の持つ性格がある。

 労働基準法上には、通勤手当に関する規定は見られず、その他の法律にも通勤手当の支給を定めたものはない。つまるところ、通勤手当に法律的な支払義務はなく、あくまでも、勤務先側が任意に定める福利厚生に位置づけられる。通勤手当を含む各種の手当については、社会保険料・労働保険料の算定時に算定基礎として取り扱われる。その一方で、税制上では、1カ月当たり最高15万円までの通勤手当が非課税所得として取り扱われるなど、差異が認められるのもこのためだ。

 こうした通勤手段の自家用車の変更に伴う、需給動向の変化をごく大くくりで試算してみた[図表2]。

 平成28年社会生活基本調査結果では、1日当たりの通勤・通学時間の全国平均が1時間19分(79分)となっている。自動車の平均走行速度を時速30キロと仮定すれば、1日当たりの通勤移動距離は、往復39.5kmとなる。

 平成22年国勢調査時の人口規模別市町村数は1727市町村に及び、平均人口は約6万8970人となる。さかのぼること10年のギャップがあるものの、眼鏡の世界的産地として有名な福井県鯖江市の令和2年7月1日現在の地区別人口は6万9362人であり、平均とほぼ同程度の規模だ。そこで、試算に当たって、鯖江市を用いた。

 鯖江駅を起点に県道229号線を福井方面に向かい、商工会議所前駅の交差点を左折して福井大学文京キャンパス脇を経由し、えちぜん鉄道の新田塚駅まで走行すると、おおよそ19kmになる。Google map上の所要時間は41分と、ほぼ全国平均時間程度だ。自家用車通勤の平均移動距離・時間の一例として適当だ。

 移動に要する燃料は、車体・運転技術・混雑状況により大きく異なるため、レンタカー利用時に(燃料を満タンで返却せず)走行距離に応じた燃料代を支払う店頭清算レートを試算根拠とした。

 調査の結果、事業者によりかなりの価格差が認められたため、筆者が実際に8月第4週(17日~23日)に小型乗用車を借りて、約39.5km走行した場合の1km当たりの単価を算出し、平均した。

 その上で、感染拡大に伴って、2月27日に(3月2日からの)公立学校への臨時休業が要請された状況を踏まえ、3月1日から通勤手段を自動車に切り換えたと仮定した。

 3月1日から8月31日まで6カ月間の平日全てに無休で出勤した場合の出勤日数は125日となり、その日数を乗じた燃料代は、平均で5万9789円だ。燃料を注ぎ足す形で補給していたり、他の用事と組み合わせて自家用車を利用していると分かりにくいが、大くくりの試算上では、通勤時にこの程度の費用の支払いが避けられないこととなる。