まるで独房のような経験

 中国との往来はかれこれ14年目という林さんも、1日3回の中国式弁当「盒飯(フーファン)」にはさすがに耐えられなかった。緑豆(りょくとう)をまぜて炊いたご飯、粟を炊いたような雑穀のおかゆ、昆布の炒め物やキュウリの漬物…。肉類はお情け程度についてくるだけで、まるで僧侶の粗食だ。いまどき、この手の弁当でも分厚い肉が入っているのが定番であり、地元の人でもこれは「勘弁」だろう。林さんはカップラーメンと缶詰を持参していたが、それも尽きると最後は「ご飯にふりかけ」でしのぐしかなかった。

日本人にはなじみのない昆布の炒め物の入った弁当

 弁当には生野菜がつかないので、林さんは現地子会社の従業員に頼んで野菜ジュースを差し入れてもらった。外部からの差し入れは許可されたようだが、ホテル側に「毎日は困る」と言われ、週2回程度ということで目をつぶってもらった。

 室内での生活は、大小2枚のタオル(2週間これを使い続ける)を与えられるだけで、洗濯も掃除も自分で行わなければならない。そこで、もはや中国渡航の必需品となった使い捨て除菌シートが活躍した。洗濯は脱水するのに苦労した。

「肉っ気なし」は地元民も「勘弁」だ

「文庫本を20冊ほど持参したので、前半の1週間はまだなんとか耐えられましたが、それを読み終わってしまった後半はどうにも時間をつぶすことができない。NHKの衛星放送すら受信できませんから。1日3回、ピンポンとベルが鳴って弁当が届けられるだけで、あとは携帯電話に着信するグループチャットを、うつろな目で見ているしかないんです。ホテルの前には警察車両が横付けされ、監視カメラとともに隔離中の利用者をじっと見守っている。途中で逃げ出せば、さらに7日間の隔離が追加されます。これはまるで、刑務所の独房にいるかのような経験でした」

 

中国に渡航しなければならない“喫緊の理由”

 14日間のホテル代の合計は7000元(約10万5000円)、それ以外に血液検査とPCR検査費用として238元(約3570円)がかかった。ホテル側からは「検査費用は現金で、ホテル代はQRコードで支払うように」と指示された。

 林さんは日本でウィーチャットペイを登録していたが、中国では利用できなかった。また、林さんと同じ便に搭乗した日本人の中には“ガラケー”(ガラケーの宿泊客に対してはスマホが貸与された)しか持っていない人や、中国生活に不慣れな人もいて、とてもQRコード決済などできる状況ではなかった。空港で人民元に交換する時間もなく、ホテルに連れてこられたわけだが、最終的にはクレジットカード決済で難局を乗り切ったという。

 それにしても、このようなリスクを冒してまで中国に渡航しなければならない“喫緊の理由”とは何だろう。林さんは次のように語っている。