米大統領選の歴史で
まれに見る大混乱の恐れ

 今回はさらに厄介なことがある。新型コロナウイルス大流行の影響で、すでに数百万人の有権者が候補者の名前を記した投票用紙を郵送していることだ。一部の州ではすでに投票所で期日前投票も始まっている。

 共和党の候補者が急遽トランプでなくなったらどうするのか。

 その場合も共和党候補者としてトランプの名前が記載されたまま投票が続くとみている専門家が多い。

 だが、選挙で最終的に大統領候補に直接投票するのは各州から集まった選挙人538人である。選挙人がトランプに代わる新候補に投票できるかどうかは州法によって異なるだろう。当然、異論も出る。

 トランプは、持ち前のダークサイドスキルで、敗北しても郵便投票で不正行為があったと騒ぎ立てて最高裁で選挙結果を無効にするかひっくり返そうとするだろう。

 さらにはお得意のツイッターなどで極右の暴力的な陰謀論者や熱狂的な白人労働者を人種差別であおって、全米各地で暴動を起こす可能性さえある。

 先月29日にオハイオ州クリーブランドで行われた第1回大統領候補討論会では、暴力を礼賛する白人史上主義団体「プラウド・ボーイズ」に対してトランプが「Stand back and stand by(引き下がって、待機せよ)」と語りかけて物議を醸した。「お前たちの出番はこれからだ」と言ったに等しいからだ。

 トランプを熱狂的に支持する極右系陰謀論「Qアノン」もソーシャルメディア上で急速に信奉者を増やしており危険な存在だ。

 そんな中、驚愕のオクトーバーサプライズがあるとドキュメンタリー映画監督で辛辣な大統領批判を続けるマイケル・ムーアが主張している。なんとトランプの新型コロナウイルス感染そのものがフェイク(でっち上げ)だというのだ。

 選挙戦終盤で劣勢に追い込まれたトランプが感染を装って国民の同情を得るとともにコロナに勝った英雄のイメージを支持者に植え付けて、土壇場の一発逆転を狙う作戦に出たというのである。

「トランプについてはひとつの絶対的真実がある。あいつは一貫して、絶対的に、容赦のない、恐れを知らない、プロの嘘つきだということだ。連続嘘つき魔だ」とムーア監督はいう。

 にわかには信じがたい陰謀論のレベルだが、そんなこともやりかねないと疑ってしまうほどトランプのダークサイドスキルは悪辣なのだ。

 今年の大統領選挙はアメリカ史上まれに見る大混乱になることはまず間違いない。11月3日に次の大統領はすんなりと決まらないだろう。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)