Aの懲戒解雇処分は妥当かチェック

 「この判断基準を基にして、今回のAさんの件と照らし合わせてみましょう」

<Aの場合>
(1)甲社がAを採用するときに最も重要視したのが「営業職の経験者」であったことだ。Aは学歴詐称はあったが職歴や前職での職務内容詐称はなく、事実業務面でかなりの実績を上げており勤務態度は優秀である。
(2)甲社営業職の給料は、中途採用の場合年齢と前職の経験を考慮の上決めることになっており(前職で一定期間以上営業を経験した者には加給がある)、Aの給料は大卒を理由に優遇されていない。
(3)Aが学歴を詐称して入社した事実を知っているのは現時点でB課長とC社長の2人だけであり、口外しなければ社内秩序が乱れる問題はない。
(4)甲社における営業職は学歴に関係なく従事可能であり、学歴によるコンプライアンス面や取引先等への問題もない。

 「この2つを比較すると、A君をクビにするのは難しいですね」

 C社長は腕組みをしながら言った。

「そうですね。就業規則に懲戒規程があれば何らかの処分を下すことは可能ですが、懲戒解雇処分は妥当とはいえないでしょう」

 すると横で2人の話を聞いていたB課長が言った。

「私はA君には会社に残ってもらいたいと思っています。彼は性格もいいし、仕事ぶりも優秀です。それにもし彼がいなくなったら、また新入社員を雇わなければなりません」

 C社長は反論した。

「しかし、かつてのA君のようにコロナの影響で職を失った人はいるはずだから、求人を出せばまた応募者が来るんじゃないか?」
「じゃあ、A君のように優秀な社員を採用できる保証はありますか?」
「うーん、それは…」

 C社長は絶句した。E社労士は今回の結論として、

「Aさんの処遇については、就業規則等の内容や内部事情と照らし合わせた上で、最終的に会社で決めることになります」と結んだ。C社長はうなずいた。