世界各国が激しく新型コロナウイルスのワクチンの開発競争を繰り広げているなか、中国では実用化に向けた動きが猛スピードで進んでいる。既に臨床試験も進むなど、中国がポストコロナの世界の医療に影響力を持とうとしている。しかし、本当に大丈夫なのだろうか?(ジャーナリスト 姫田小夏)
世界のワクチン開発…先頭集団に中国企業が複数
10月第2週の週末、中国の通信アプリ「ウィーチャット」内で、「新型コロナウイルス・ワクチン接種の意識調査」が拡散された。アプリをインストールしている筆者のスマホにも着信したのだが、その調査内容は「接種を希望するか検討中か、どちらかを選択して送信せよ」というものだった。
発信元は、国有医薬品メーカーの中国医薬集団と中国生物技術集団の連合チーム(詳細は後述)である。同チームの開発するワクチンは、北京市と武漢市ですでに公式サイトからの接種の予約が始まった。
世界保健機関(WHO)は、10月2日時点で、WHOに登録されているワクチン開発プロジェクトは193件あり、そのうち10種のワクチンが、「第III相臨床試験」(不特定多数を対象に有効性を検証する試験)――つまり、最終段階にあると公表している。
世界の先頭を競う10種のワクチンだが、そのうち3種の不活化ワクチンと1種のウイルスベクターワクチンは、下記の3つの中国チームが研究と開発に携わっている(WHO登録順)。
…北京に拠点を置く民間企業で、国内で60近い発明特許を持ち、120以上の論文を国際学術誌に発表している。
(2)中国医薬集団(シノファーム)+中国生物技術集団(CNBG)
…中国医薬集団は、国務院の国有資産監督管理委員会が直接管理する巨大国営企業であり、1500以上の子会社を持つといわれる。パートナーの中国生物技術集団は中国医薬集団の傘下にあり、北京生物制品研究所と武漢生物制品研究所を有している。
(3)康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)+中国人民解放軍軍事科学院
…康希諾生物は、天津市に本社を置く民間企業であり、中国人民解放軍の最高学術機関である中国人民解放軍軍事科学院とチームを組んでいる。共産党政権の中国では、いまだ軍は国の中枢部門であり、最先端の医療も軍が握っている。
このようにして中国は、自国の最先端の製薬企業や研究者を総動員して開発を急いでいる。ちなみに上記以外にも、上海復星医薬集団(シャンハイ・ファーマシューティカルズ)が、ドイツのバイオNテック社および英国のファイザー社とチームを組み、第III相臨床試験に進んでいる。
WHOのテドロス事務局長は9月21日、「世界経済の回復を加速するための最速の方法は、すべての国でコロナワクチンを接種させることだ」と述べたが、このまま中国の開発が進めば、中国がポストコロナの世界の医療に大きな影響力を持つことになるだろう。