2020年の秋に15周年を迎えたあーちの現在

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、あーちは今年(2020年)の3月から5月まで活動停止を余儀なくされた。格差の広がりが加速するウィズコロナの時代を意識しながら、あーちはその再開とともに新たな取り組みも始め、居場所の必要な人が安心できる空間として、いま新たなスタート地点に立っている。

「6月4日から再開しましたが、現在(2020年10月)も厳しい人数制限と時間制限のもとにあります。

『よる・あーち』について言えば、青年が来てもよい日と子どもが来てもよい日を隔週で分けているかたちです。子ども食堂も、子どもの来る日だけに実施しています。また、(『よる・あーち』の)時間も、通常は16時から20時という設定ですが、現在は17時から18時半に短縮しています。停止していた期間、私は、あーちを生活の一部に組み込んでいた子どもや青年のことが気がかりでなりませんでした。私同様に心配する学生も多く、どのように彼ら彼女たちとつながれるかということがトピックでした。

 そうした経緯から、6月の再開時に学生が仕切り役となってWEBミーティングシステムも稼働させました。『あーちに来るか、WEBミーティングに来るか』という選択ができるようになれば、WEBミーティングの効果が発揮されると考えたからです。WEBミーティングは、『WEBよる・あーち』と称して、毎週金曜日の19時30分から実施し、毎回30人ほどが参加しています。主に障がいのある青年のニーズが多く、子どもや市民がそこに加わっている状況です。(Zoom機能の)ブレークアウトセッションを用いて、少人数でそれぞれの時間を過ごし、おしゃべりを続けるグループもあれば、ゲームを始めるグループもあります。参加する子どもの保護者のなかには、『これからはWEBを介しても人とつながっていく時代』という意識から、子どもを参加させる方もいます。

 ただ、やはり、Zoomを使えない人たちもいて、『いつになったらみんなが直接会えるの?』といった声が毎週のように上がります。他者との関係が分断されている青年からは、『けんかをしたい』というような切実な声も上がります。画面越しに会うだけでは、子どもも青年も、そして、学生も物足りないようです」

 あーちは今年(2020年)9月で設立15周年を迎えた。津田教授は15周年に寄せて、『あーち通信』(フリーペーパー)で、「生命を慈しみ、歓待しあう関係にあふれるコミュニティをつくっていこうという思いは、あーちが地域に密着するにしたがって少しは形をなしてきたのではないでしょうか」と記している。出会う者=参加者の「歓待しあう関係」こそがあーちの本質であり、共生社会のキーワードだろう。

「困難を抱えている人たち、行き場のない人たちが最終的な行き場としてあーちを選ぶこともあります。求めていることが自身のなかで明確になっておらず、怒りをただただ内側にため込んでいるケースもあります。『歓待しあう関係』が試されることもしばしばです。運営側の私たちが、そうした生きづらさを抱える人たちとの出会いで気づくことも多く、支援システムがどうあるべきかという課題を突き付けられる思いです」

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。