ザッポスという会社をご存じだろうか。日本には進出していないアメリカのオンライン靴店なのだが、数々の伝説級のサービスとユニークなエピソードで全米、そして日本を含む世界中にファンがいるというかなり変わった会社だ。そしてこのザッポス、サービスも変わっているが、もっと変わっているのがそのマネジメント。ザッポスは世界最大規模のホラクラシー組織である。この10年のザッポスの伝説とマネジメントを自ら全公開したのが注目の『ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー』(トニー・シェイ+ザッポス・ファミリー+マーク・ダゴスティーノ 著/本荘修二 監訳/矢羽野薫 訳)である。本稿では、特別に本書から一部公開する。

ザッポス星人

いつも笑顔でなければいけない、なんて不合理です

by ジェイミー・ノートン チーフ・スタッフ(嗅覚がとてつもなく鋭いことは、天の恵みでもあり呪いでもあると思います)

 社員同士が支え合っている、オフィスに笑顔が絶えないと聞いて、私たちのことを少々誤解している人もいるでしょう。例えば、職場の「カルト宗教」みたいだと言われることもありますが、けっしてそんなことはありません。私たちは価値観を重視して人を採用しますが、その価値観をどのように実践して表現しているかを見てみると、同じ表情や振る舞いをする人は一人もいません。

 みなさんもザッポスの社員に会う機会が増えれば、私たち一人ひとりが違う人間だとわかるでしょう。それぞれが異なる強みを持っていて、コア・バリューをさまざまなレベルで表現しています。しかし、採用プロセスがうまくいくと、多くの社員が同じ価値観を持っているので、たとえ自分とはまったく違う相手でも、一緒に働く人を心から好きになるでしょう。

 誰もがいつも笑顔でいることを、求めているわけではありません。そういうルールもありません。このキャンパスで働く社員のために、楽しい雰囲気と楽しい職場をつくっているだけです。私たちは多様性を受け入れています。社員には本当の自分として、仕事に取り組んでほしいと思っています。

 社員である前に一人の人間である以上、気持ちの浮き沈みがあります。落ち込んでいるときも、高揚しているときも、それぞれ仕事に影響するでしょう。結婚を控えていれば、出勤しても仕事に集中できないかもしれません。無理もありませんよね。身近な人を亡くしたばかりで、ほかのことが考えられないかもしれません。そのような事情を理解してくれない会社で働くなんて、私には想像できません。