ザッポスという会社をご存じだろうか。日本には進出していないアメリカのオンライン靴店なのだが、数々の伝説級のサービスとユニークなエピソードで全米、そして日本を含む世界中にファンがいるというかなり変わった会社だ。そしてこのザッポス、サービスも変わっているが、もっと変わっているのがそのマネジメント。ザッポスは世界最大規模のホラクラシー組織である。この10年のザッポスの伝説とマネジメントを自ら全公開したのが注目の『ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー』(トニー・シェイ+ザッポス・ファミリー+マーク・ダゴスティーノ 著/本荘修二 監訳/矢羽野薫 訳)である。本稿では、特別に本書から一部公開する。
「初期設定」の未来を超えるために
私たちは先手を打つことにしました
従来のビジネスの世界にいる人は、2014年を迎えたザッポスを見て、こう言ったでしょう。「素晴らしい! 社員みんなが再び同じ屋根の下にいて、新しいパートナーシップを結んで、素晴らしいことが始まっている! 今のままやればいい。波風を立てる必要はない。これまでに築いてきた最高のビジネスから、より多くの利益を掘り出す方法を見つければいい。全盛期が始まるよ」
それは、私が賭けてみたいと思うチャンスではありませんでした。しかも、同じことを永遠に続けていたら、私は退屈するでしょう。
S&P500企業の平均寿命は約15年です。私たちはまさに15年目でした。そのときの私たちが惰性で進み始め、「効率化」と「削減」という典型的な道を歩み、居心地のいいゾーンにとどまるなら、やがて衰退するだろうとわかっていました。
企業にとって「初期設定」の未来は死です(企業は一般に、時間という試練に耐えられないものです)。言うまでもなく、市場に大きな変化が起きて顧客がネット販売から離れていくなど、予想外の変化があった場合は、何が起きるかは誰にもわかりません。それが予想外の変化というものです。
惰性に流されるべき時期ではありませんでした。先手を打つときが来たのです。ザッポスをよりレジリエンスのある企業にするために、今こそ「変化を受け入れ、変化を推進する」というコア・バリューを強化するのです。
これまで会社として成し遂げてきたことをもとに、それを次のレベルに成長させる新しい方法を、自分たちらしいやり方で見つけるときが来たのです。
私にとって、これは経営の構造を変えるということでした。人を新たに雇ったり、解雇したりするのではありません。チームを組み替えるわけでもありません。新しい経営構造を導入して、私自身と、典型的なトップダウンのヒエラルキー構造を取り除き、会社の土壌にしっかりと植え付けた進歩とイノベーションとレジリエンスを、成長させ、繁栄させるのです。