トランジスタラジオやウォークマンなど、ソニーの画期的なイノベーションは長年、ハーバード大学経営大学院(以下、ハーバード)の授業でも取り上げられてきた。だが、近年は製品開発だけでなく、そのリーダーシップのあり方にも注目が集まっているという。『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)を上梓した佐藤智恵氏が、ハーバードでソニーの経営が注目される理由を解説する。

ハーバードが注目する
ソニーの「パーパス」経営

ハーバードがソニーとアップルのV字回復に見出した日本的経営の真髄
ハーバードでソニーの経営が注目される理由とは? Photo:Diamond

 ソニーはハーバードの教員や学生の間で最も有名な日本企業の一つだと思います。教員からは「トランジスタラジオやウォークマンを生み出し、スティーブ・ジョブズにも大きな影響を与えた偉大な会社」として認識されていますし、学生にも「プレイステーションの会社」としておなじみです。

 ソニーのイノベーションはハーバードのさまざまな授業で教えられていますが、本書『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』において注目したのは、ソニー本社のV字回復について議論する授業です。そこで使われている教材は、製品開発よりも、むしろリーダーシップに焦点を置いた内容になっています。

 この教材は、現在、大企業の役員や役員候補が受講するエグゼクティブ講座で教えられていますが、なぜこの事例が注目されているのかといえば、ソニーが企業の「パーパス」(存在意義)を再定義することで、V字回復に成功したからだと思います。

 経営学の世界にも流行語がありますが、今、ハーバードで最もはやっている言葉の一つが「パーパス」です。

 私がコロンビア大学経営大学院に留学していた2000年代前半は、「ビジョナリー・カンパニー」という本がはやっていたこともあり、「ビジョン」「ミッション」といった言葉がよく使われていましたが、今は圧倒的に「パーパス」です。企業は「自らがこうありたい」よりもむしろ、社会の中の存在意義、世界の中の存在意義を示すことが重要になってきたのです。

 実は日本企業の創業の精神は、すでに「パーパス」を示していることが多い。というのも、日本の優良企業の多くは、戦前~戦後、社会(日本の場合は特に国家)の成長に貢献することを目的に設立されているからです。つまり、今はやっている「パーパス」を100年ぐらい前から実践してきたのが、日本企業なのです。