ハートは売らずに、行動を揃える

昆 自律を重んじつつ、健全な規律を維持しながら社員自らが価値を生み出せるようにしなければなりません。そのためにビジョン(目的、方向性、未来像)、ミッション(使命、役割、存在意義)、バリュー(価値観、行動規範)があるのだと思います。企業によってそれぞれの定義は異なりますが、目的と役割、つまり企業としてどの領域で社会的価値を創造するのか、そのためにどう行動するのかを明確に示している点は変わらないはずです。この3層構造がしっかりしていれば組織としてブレが生じることはないはずです。

日置 日本企業は経営理念の下で行動のベクトルを揃えようとしていますが、規律はともかく自律とのバランスが心もとないようです。

昆 経営理念のなかには、「ハートを売れ」と言っているに等しいものが見受けられます。しかし、心は言うまでもなく個々人のもので、組織で共有しようというのは難しい。心と頭を切り分けて、行動のベクトルを揃えられればそれで十分です。

 規律どおりに言われたまま仕事をこなす社員でいいなら人事規定で足りるかもしれませんが、自律的に働く人財がほしいのであれば、人事がすべきは自立を促すような企業文化を作って浸透させることです。

ビジョン、ミッション、バリューで人も評価する

日置 人を管理しないということは、上司と部下の関係においてもいえるのではないでしょうか。下の人が自律的かつ協調的に力を発揮できるようにサポートすることが今日的な上司の役割だとすれば、求められるスキルセットも変わってくるので、評価と選抜の基準を見直す必要があります。

昆 おっしゃるように、誰を上司にするかは非常に重要なテーマです。この時、2つの視点があります。1つは管理能力でなく、職務能力が高いこと。これは先ほどお話ししたように、部下の管理が上司の仕事ではなくなっているためです。もう1つは、人を尊敬する姿勢があり、部下の成功を助けてあげられるかどうかです。

 この2つを兼ね備えている人はそう多くはありません。上司に必要なのは我慢強く部下をサポートして育てることなのに、業績が優れた人ほど自分のやり方を押し付けがちで、何で自分と同じようにできないのだと考えてしまう。これでは自律性のある人財が伸びるわけがありません。