お金を一切払わずに<br />意見を丸呑みして急成長?<br />ワークマンが<br />「アンバサダーマーケティング<br />日本一」を目指す理由

これからは、「インフルエンサーマーケティング」ではなく「アンバサダーマーケティング」の時代だ──。そう語るのは、作業服ブランド「ワークマン」急成長の仕掛け人・土屋哲雄専務だ。
ブログやYouTubeなどでワークマン製品の魅力を伝えてくれる濃いファンをアンバサダーとし、企業とアンバサダーがともに成長するしくみを見事に構築。
お金を払って宣伝してもらうインフルエンサーマーケティングとはまったく違い、アンバサダーには一切お金を払わず、ウィン・ウィンの関係を築くようにしているという土屋専務。閉店や撤退が相次ぐアパレル業界で4000億円の空白市場を開拓し、なんと10期連続最高益を達成。国内店舗数でユニクロを抜くまでの急成長を遂げている秘密は、この「アンバサダーマーケティング戦略」にあるという。
残業しない、ノルマを課さない、期限を設けない。
この型破りな土屋さんの経営理論とノウハウがこれでもかと詰め込まれた白熱の書『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』が大ブレイクしている。今回は、稀代のマーケター・経営者である土屋専務に、この「アンバサダーマーケティング」について訊いた。(聞き手&構成・川代紗生/撮影・疋田千里/編集・寺田庸二)

──「アンバサダーマーケティング」にたどり着いた経緯を教えてください。

土屋哲雄(以下、土屋):今、会社のミッションにしようかと思っているテーマで、「声のするほうに進化する」というものがあります。

経営者側が「俺についてこい」と引っ張っていくのではなく、社員の声、加盟店の声、お客様の声、みなさんの声を聞きながら進化していく。

お金を一切払わずに<br />意見を丸呑みして急成長?<br />ワークマンが<br />「アンバサダーマーケティング<br />日本一」を目指す理由土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を『ワークマン式「しない経営」』で初めて公開。本書が初の著書。ダイヤモンド書籍オンラインでも大好評連載継続中。

急成長できるからといって、毎年3割成長を目標に10年間続けよう! としても、徐々にへばってきて、社員はみんないなくなっちゃうんですよね。不祥事が起きたり、ブランドイメージが落ちたりもする。

それではダメなんです。

だからこそ、社員や加盟店が何を望んでいるのか、一番儲かって急成長しているときにこそ、きちんとみんなの声を聞く姿勢が必要だと思っています。

以前、加盟店の店主から「もっと休みがほしい」という意見がありました。

それで、昨年は店休日を年間4日間増やしたんです。

ただ経営的には4日も休みを増やすのは結構大変で、売上はかなり減りますし、お客様には迷惑をかけます。あまりやりすぎるとお客様の離反にもつながります。

ただ今回は、真剣に加盟店の声をしっかり聞いて、ちょっとずつ進むようにした。

私の戦略目標は「客層拡大」の一つしかありません。

飽和するアパレル業界で、どれだけお客さんを取るか。

その目標に反しない限り、今のテーマは「声のするほうに進化する」でいいと思っています。