トランプ大統領は本当に
「惨めな敗者」なのか
アメリカ大統領選で、バイデン氏の得票数に及ばなかったトランプ大統領がいまだ負けを認めず、見苦しい抵抗を続けているというニュースを見て、「ざまあみろ」と胸がスカッとしたという人も多いのではないか。
ただ、トランプ氏が「惨めな敗者」なのかというと、かなりビミョーだ。
法廷闘争に持ち込んでいるからなどという話ではなく、選挙で負けたとはいえ、おおよそ7100万人もの「支持」を受けたからだ。「とにかくトランプじゃなければいい」という人が多数を占めたと言われるバイデン票と対照的に、この7100万人は明確に「トランプ支持」のフラッグを掲げた人の数であることを踏まえると、これはトランプ氏にとって「一定の勝利」と言える。彼が得意とする「ディール」の切り札になるからだ。
トランプ氏が大統領の座から転落すると、「さまざまな不正疑惑で訴追されるのでは」という見方があった。韓国の歴代大統領のように、権力の座から離れた途端にブタ箱送りにされるというのだ。
しかし、7100万得票でそれはかなり難しくなった。これだけ根強い支持を持つ人気者にそんなことをやれば、アメリカ社会の分断はさらにひどいことになるからだ。選挙中にトランプ支持者の武装集団が現れたことを踏まえれば、「バイデンにハメられたトランプを救え!」などという武力衝突が起きる恐れもある。そこまでのリスクをとって、トランプ氏を訴追するメリットは少ない。
また、それをやれば「トランプの思う壺」という面もある。4年前からトランプ氏は、「ワシントンDCの一部のエリート層による支配構造と戦っている大統領」というブランディングを続けてきた。今回訴追されれば、「ほら、私の言った通りでしょ」と開き直って、「無実の罪を被せられ、エリートに反撃する元大統領」というストーリーラインの「トランプ劇場セカンドシーズン」へ突入できる。SNSやメディアを駆使して騒げば、それなりに支持を集められる。
つまり、「約7100万人の票を得た」というカードを持つトランプ氏は、やりようによってはまだいろいろな戦いを仕掛けられるということなのだ。