ジョブコーチの養成研修で望まれるスキルの習得

 現在、ジョブコーチ(職場適応援助者)の養成研修は、独立行政法人 高齢・障害者・求職者雇用支援機構(JEED)のほか、厚生労働大臣が定める研修を行う民間機関(主にNPO法人)によって行われている。*6

 研修を受けることのできる者は、JEEDが「障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース)を活用して活動する見込みのある者等」で、民間はそれに加え、「ジョブコーチ支援の知識・技術を習得したい就労支援の担当者」となっている。

*6 現在、厚生労働省では、有識者による「職場適応援助者養成研修のあり方に関する研究会」を実施しており、養成研修のカリキュラムや研修方法等の見直しについて検討を続けている。

清澤 ジョブコーチの養成研修では、知識の習得に加え、より実践的かつ具体的な、すぐ使えるスキルの習得が望まれると、私は思います。たとえば、企業からの質問の意図を理解し、それに対してどのように応えていくのがふさわしいかを知り、実践する、といったスキルです。

「(障害のある)Aさんの症状悪化のサインはどういうもので、そのときはどう対応すればいいですか?」と、企業の担当者がジョブコーチに尋ねたときに、「調子を崩したら、とりあえず休ませてください」という答えでは根本的な解決になりません。「症状の悪化は、周りから見ると○○な状態で、そのときは□□のように対処する」と答えるべきでしょう。

 障がいのある方から相談を受けた場合も、その方の気持ちに寄り添うだけではなく、論理的に対応策などを答えたり、その方の成長を促す関わりのできるスキルを持つジョブコーチが理想です。研修カリキュラムで、知識をどう使うかのノウハウまでを体系的に学び、実践の場で足りないと気づいたことを新たな知識で補っていくサイクルが理想です。

 私自身、これまでにいろいろな研修に携わり、参加もしてきましたが、座学を中心とした研修では、どうしても、知識習得で終わってしまう傾向があります。そして、知識を習得したことで満足してしまっている支援者も少なくありません。知識は自分で身に付けようと思えば身に付けられますが、ノウハウは自分だけで身に付けるのは至難の業です。

 障がい者の就労継続(職場定着)を前提に、企業の担当者はジョブコーチとの密な連携が必要となる。「せっかくジョブコーチがいたのに…」とならないようにするために、企業側はどうすればよいだろう。

清澤 まず必要なのは、配置されたジョブコーチに、「どういう支援をしていただけますか?」と尋ねることでしょう。企業側は「(障がい者対応を)全部やってくれるはず」、ジョブコーチ側は「わたしにすべて任せてくれているはず」といった暗黙の了解で意思疎通がなされないことがあります。企業側の望んでいることと、ジョブコーチができることには相違のあることが多いので、そこを事前に確かめておく必要があります。

「障がい者のプライベートにはどこまで関与しますか?」「(配置期間が決まっているジョブコーチの)期限後にはどうしたらいいですか?」といった企業側の問いにジョブコーチは明確に回答していくことです。たとえば、「ジョブコーチとしてのわたしの役割はAとBとCです。Dを望む場合は、わたしが提携している他の支援機関にお願いすることになります。期間は○月までなので、それ以降は行えませんが、他の支援機関と繋がれるように調整したうえで、○月中にその機関の者を御社に紹介し、引き継ぐことも可能です」という答えが企業を安心させます。

 自身の支援の限界をきちんと伝え、それを補完するサービスを提供できるジョブコーチが理想です。